久しぶりの歌謡コンサート。


NHKホールに入ると必ずすること。それが神棚へのご挨拶。


芸事の神様がきっとおられるに違いない。


きちんとご挨拶はせねばならない。


そう思って、毎回手を合わせる。
そして、毎回手順を間違う。



ええっと、最初は拍手だっけ、礼だっけ、何回だっけ。



これだけ長いこと生きてきて、これだけ何回も神様の前に立って。

で。

これだけ間違う。迷う。



今回もまた。




そのブザマさに、そばに座っておられた方が見かねて。

二礼二拍手一礼ですよ。


ああ、そうでした。ありがとうございます。




やり直しのご挨拶。

ここまで、うまくできないと、何かしらの欠損が身のうちにあるのではといぶかってしまう。



どこか必要な部品が落ちているのではなかろうかと、うたぐってしまう。




いやいや、やっぱり、どこかの何かは、足りないのだと思う。


その足りなさがわかるから、唄っているのかもしれない。



歌の出番前に、舞台袖で、中村美律子さんが、私の手をぎゅっと握ってくださる。


とてもあったかい。


冷たい私の手が、あったかい美律子さんの手の中でほどける。



クミコさんの歌、あったかい。美律子さんはそう言ってくださる。




足りないものだらけだけど、唄うことはできる。

そんなふうに、やっと思えてきた。




焦らずくさらず、ぼちぼちいきましょ。