ミュージックフェア。



この番組に出ることを、心ひそかに夢見ていた。



ほんとに、心ひそかに。







私がまだまだ子供の頃、この番組には、越路さんや金子さんが出ておられた。





そして、シャンソンという、大人の歌を唄われていた。





それに心が震えた。





なんか、ええなあ。



こーゆー歌。







こーゆー歌を唄える番組があるんだなあ。なんてステキなんだろう。





その頃は、司会もご夫婦でという形で、いかにも大人の音楽会みたいな、穏やかだけど、、ちょっと背伸びをして襟をただす、そんな雰囲気。



これが、またステキだった。









そうこうするうち。







私は歌い手になり、エイベックスという、会社に入り。



ある時、CDを持って挨拶回りに行くことになった。









連れられていったその一つが、ミュージックフェア。







デスクの若い男性に、同行したエイベックスのディレクターが言う。





クミコをぜひよろしくお願いします。











ああ、やった、やった!



これで私は、ついにこの番組に出られる!



越路さんや金子さんと同じ所で唄える!











そんなこと、なかった。





ずっと、なかった。









それから、年月は、十年以上たった。









それに、ミュージックフェアという番組自体が、もうすでに変化していた。







どうやら、もうカンケーなさそうだな。







永久にカンケーなさそうだな。











そうなんとはなしに思っていたら、突然、出演できることになった。









この年で初出場。皆さんに驚かれながら、それでもうれしい。









そうか、これがミュージックフェアかあ。





湾岸の新しいスタジオは、もう昔のそれとは違うけど、それでも、どこかに憧れの人たちの息を探す。





今、私がこうして唄っているキッカケを与えてくれた人たちの残り香を探す。









収録が最後だったので、スタジオを出たのはもう日をまたいでいた。









レインボーブリッジから見える、赤く点滅するたくさんのビルの灯が、静かにキラキラしてた。









なんか、一つ終わったな。



そんな気がした。





終着でも出発でもない、でも、なんか一つ終わった。





そんな感じがした。