時々、おすすめの本について聞かれることがある。


どんな本が好きか、どんな作家が好きか。




武田百合子さんを挙げることが多かった。


「富士日記」とか「犬が星見た」とか好きですね。




ところが。

いつもそのあと、思い出した。


あ。「富岡多恵子」。




そうだった。私、若いころこの人にハマっていた。




無頼な感じの人だった。



野坂昭如が大阪のオンナになったような。





キレイな足の人だった。


トレンチコートの似合う人だった。




だった、だったと書いているが、亡くなったわけじゃない。



富岡さん、ごめんなさい。






なにが好きだったか。



この人の「一人」の感覚。



これが好きだったと気づいた。




たとえば。


食べ物やに行く。


何回か行く。


お店の人と馴染みになる。



それがイヤだ。


そうなったら、もうその店には行かない。



そういう感覚。




いつも、「知らない」間でいたい。


馴染み馴染まれない、その距離感。





これを保つのはムズカシイ。


誰だって馴染んで、仲良くなって、居心地よくなりたい。



それを、良しとしない、富岡さんの感覚。


それに、しびれた。



ああ、かっこいい。




こんなオンナになりたい。



そう思った。





それから、何十年もたって、でも、時々自分のココロに富岡さんがいるのが見えた。



一人。であること。

一人ですっくと立つこと。

群れないこと。




そんな法律みたいなもんが、いつも自分の中に潜んでるのを見た。



慣れない、馴れない、人との距離。



みんなとお友達、みんなと仲良く。


そりゃそのほうがいいよ、っていうものと一線を画す。




そんな若者みたいなトンガりかた。





今頃、また思い出した。


そんなのとんでもないよ、シンドイよ。


年とってくんだしさ、仲良くがいいよ。



そう思いながら、富岡さんを思い出してる。




その富岡さんも、もう80才。




お会いしてみたいような、したくないような。