上野には動物園もある。


美術館もある。


芸大もある。


そして、文化会館もある。



ここの小ホールで八木さん率いる「木星音楽団」のコンサートがあった。


木でできた楽器たち。

ケーナ、尺八、琴、アルパ。



ピアノのような全能的楽器じゃない。


どれも不自由なところのある楽器だ。



息ひとつや、指ひとつで、一生懸命音を作る。



そういう楽器は、でも、全能的楽器を越えてしまうことがある。


ゆうゆうと越えてしまうときがある。





ステージに立ち、彼らの音で唄うと、すかすかしている。


これまでびっしりと詰まった音で唄ってきた者は、ちょっと不安になる。


すかすかはすうすう、かもしれない。



すうすうは、風にも似ている。



木の楽器で風の音のなか、歌を唄う。


一つ一つの音に耳を澄ませ、声を出す。




そうして二曲唄った。






気持ちの良い打ち上げもあった。



ちょっと前までピンク映画館があったあたりに、しゃれたレストランができている。



八木さんを支えたメンバーやサポーターが、乾杯をする。



八木さんは、みんなから「やぎりん」と呼ばれる。


私も、やぎりんと呼んでいる。




やぎりんは、みんなに「大入り袋」を配った。


見ると、宝くじが入っている。



当たれば7000万円。



はい、大入り7000万です。

と、白い顔でやぎりんはニコニコしている。





人生にも「傾向と対策」があるとしたら。


これまでのことをふまえ、これからを考えようとしたら。



ニコニコしてる場合じゃないよ、やぎりん。と思う。


でも、やぎりんは、ずっとニコニコしている。




それが、ほかの人を幸せな気持ちにさせる。



いいじゃん、これまでもこれからも。

今このとき。でいいじゃん。



そんな気持ちにさせる。




どんなときも、気持ちを光に向けていく。




もしかして「やぎりん」は天才かもしれない。


「幸せ作り」の天才かもしれない。