昨日の朝日新聞の本のコーナー。
先だって受けていた取材記事が載っていた。
大切な本、思い出の本を一冊選んで、コメントするというもの。
私は武田百合子さんの「富士日記」を選んだ。
これ、かなり好きな人が多いので、どなたかと重複するかなあと思ったら、ダイジョウブだった。
それが意外なほど、「武田百合子好き」な人は多い。
夫の武田泰淳氏との山荘での日々がつづられている。
泰淳氏に「お前、日記書け」といわれ、はじめたものらしいが、妻のただならぬ才能を見抜いた夫もさすがだ。
毎日の食事メニューやら、ネズミとの闘いやら、愛犬の死やら、近所の人たちとの交流やら。
どれもこれも、私が育った時代のことなので、(昭和39年からの13年間だから)、自分も関係者みたいにリアルだ。
ずいぶん前、屋根裏をカカカと走る音がした。
あ、ネズミだ。とっさに思った。
そして百合子さんを思い出した。
私は、百合子さんみたいにネズミを殺せるだろうか、と思った。
「哺乳類を殺したことってない」
この事実にガクゼンとした。
虫ならある、でも、哺乳類なんて。
おののいた。ふるえた。
でも。
生きるって、ほんとはこのくらい苛酷なことなんだよなあ。
生きるって、ほんとは野性がいるんだよなあ。
で。
結局、ネズミじゃなくてカラスだったのだけど。
その時、自分のひ弱さを知った。
「富士日記」でネズミ退治の話かよ、って思われちゃいそうだけど。
いえいえ、そうじゃなく、人が日々生きていくってことのコッケイさと、シンドさとが表裏一体に見えてくるんですな。
そのうち、みんな生きて死ぬのだ、と。
そんな当たり前のことがぽこんと浮かんでくる。
この記事が掲載されて、メールが来た。
ずっとご無沙汰している女性。
素晴らしい文章を書く人だが。
「武田百合子は憧れです」と書かれていた。
やっぱり。
知性と野性と。
この二つは、遠いようで近い。