幸い指切り歌手は、なんとか仕事を終えられました。
血カンケーに弱い方々には、ご迷惑な話でした。
でも、血が流れる中、まっさきに思ったのはガザの人たちのこと。
それから戦争のこと。
指だけで、こんなに痛い。
なのに。なのに。
くそおおおお。
じつは。
指切りの夜、ある集まりがあった。
亡くなった人は、生きてる人を集める。
それまで疎遠だったのに、また交流をはじめさせる。
時間が経っているぶん、年をとったぶん、みんなそれぞれ優しくなっている。
きっと亡くなった斎藤晴彦さんは、そんな配慮をしてくれたんだろう。
「レ・ミゼラブル」の初演仲間たち10人ほど。
晴彦さんの生涯の行きつけの店に集まった。
吉祥寺のジャズの流れる店。
誘ってくれたのはトコちゃん。
パリ祭に遊びにきていて、そのことを教えてくれた。
彼女は当時最年少出演者で、その後、連ドラのヒロインになり、「渡鬼」のレギュラーへと。
オチコボレの私なんかと思ったけど、なんだか確信があった。
亡くなった人が会わせたがっているに違いないと。
なので出かけた。
行ってよかった。
心底思った。
後で送られてきた集合写真は、まるでレンブラントの絵のよう。
光と影がくっきり。
電球の真下の鹿賀さんを中心にそれぞれが左右に。
「最後の晩餐」にも似ている。
どこかに晴彦さんがいないかと目をこらしたが、いなかった。
「ほうらね」と、目を細める晴彦さんの顔が浮かんだ。