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《母の小説》:「時屋」第一章 第一話
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第二話

実は、時屋旅館には何度も行っていて知らない所ではない。

1か月に一度の、ものすごいお楽しみの日が、時屋に一泊お泊り出来る日!

小学校に入って、おトイレも失敗しないし、一人で布団に入って眠れる。
自信はある。

でも、1人でお泊まり会はドキドキとワクワク感でいっぱい。

数日前から嬉しいし、準備も嬉しいし、何もかも嬉しい。


必ず、時屋のじいちゃんがお迎えに来る。

ホンダの家でお母ちゃんとおしゃべりしてお茶を飲んだら出発だ。

じいちゃんはいつもどんな時も正座で座る。

一泊分のお泊り荷物を抱えて、じいちゃんの横に私も正座して待つ。

早くお茶がなくなるようにと、ハラハラしながら待つ。

興奮でたぶん、ほっぺは真っ赤だ。

そんな気分になる程に、時屋旅館はときめきの場所なのだ。


私が1か月に一度時屋に行く、その代わりに、時屋から1か月に一度必ずホンダの家に来るおばちゃんがいる。

ラーメンのおばちゃんだ。

私は物心ついた時からずっと、そう呼んで思い切りなついている。

大好きだ。

何故ならビックリする位のお菓子をいつも必ず持って来るから。

時にはオモチャやお人形。

まるで、女のサンタさん。
大きいし、太ってる。
抱きすくめられるとボヨンボヨンでどうしても恥ずかしくて、隙をみて、何気なく逃げる。


5歳の時には着物を持って来た。

七五三のお祝いに、綺麗に髪を結い写真を撮った。

お兄ちゃんも「めんこい!めんこいー」と珍しく褒めてくれた。

今日はデコピンではなく、頭を撫でてくれる。

ちゃんと学制服きて 一緒に写真も撮った。

お母ちゃんもお父ちゃんも、親戚のお兄ちゃんもみんな褒めてる。

気持ちが良い。
ラーメンのおばちゃんを探すと、ふすまから顔だけ出してニコニコしてる。

決してみんなの側には来ないから笑ってるけど、少し寂しい気持ちになる。
   

忘れられないのが ピアノだ。

仲良しの友達の家には、黒くて凄く大きなピアノがあって、私も欲しかった。

思い切ってラーメンのおばちゃんに頼 んだ。
おばちゃんならきっと買えると思った。

次の時、約束通りピアノを抱えて来た。

手で持てるほどに小さいピアノだった。
光った黒じゃなくて 、鮮やかな赤色。
鍵盤はドレミファソラシドドレミで終わる。

違うと思った。
けど、喜ばないといけないとも思った。

ラーメンのおばちゃんを見ると「ごめんね~」とやっぱりニコニコしてたから。


私は こうして1か月に二度も良い事があるラッキーな女の子だった。