寮美千子さんは、「奈良監獄物語」という絵本も出しています。

 

 


絵本ですから、分かりやすいことばで、「奈良監獄」を主人公にして話がすすみます。

すてきな絵本ですが、文章のみ紹介したいと思います。


目次

□坂の上の赤煉瓦
□美しい刑務所
□明治五大監獄
□黒船来航と不平等条約
□ギス監から近代的監獄へ
□囚人たちが積んだ赤煉瓦
□五翼放射状舎房
□暗い時代
□阿修羅さまたちの疎開
□若草理容室
□花火
□監獄法の改正
■やさしさを響かせる楽器
□取り壊しの危機
□町の人々の願い
□喜びと悲しみ
□別れの演奏会
□未来への船出
資料編
・奈良監獄建築配置図
・明治五大監獄
・旧奈良監獄の歴史


やさしさを響かせる楽器
 

そんな光景を、なんど見てきたことだろうか。
心の扉が開かれると、一気にやさしさがあふれだす。
彼らは、たがいを思いやり、癒しあい、育ちあっていった。
どんな罪人の心にも、その底には必ずやさしさがある。
彼らを見ていて、わたしはそう確信させてもらった。

そのとたん、風景が違って見えてきた。
彼らを閉じこめる高い塀が、彼らを守る防波堤に思えてきた。
外の世界は、差別と無理解と暴力に満ちている。
彼らをだまし、傷つけ、覚醒剤を売りつけ、悪の道に誘う者がいる。
けれども、ここには、彼らの更生を心から願う大人しかいない。
町の人々も塀の中へと通ってきて、彼らの更生の手助けをしてくれる。
少年をあたたかく見守ろうという気風が、ここには満ちている。

わたしは自分が、ひとつの大きな楽器のように感じられた。
人々の「やさしさ」を共鳴させる煉瓦でできた楽器だ。
「罪人の心を癒す建物でありたい」という明治の若き技官・山下啓次郎の願いが、
いまもここに響き続けていることを、わたしははっきりと感じた。

 



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獅子風蓮