今年は水俣病発見70周年だそうです。

高名な評論家がどこかで書いていたのですが、以前、石牟礼道子さんの『苦海浄土』を読んだがよく分からなかった。最近、読み返したら、分かるようになったと。
実は私も、大学生の時、公害問題に関心を持って、石牟礼道子さんの『苦海浄土』を読んだことがあります。
しかし、理系の硬い頭の構造のせいか、あまり面白く感じませんでした。
人生経験が少なかったせいかもしれません。
齢をとった今なら、もっと深く読めるのかもしれないと思いました。

というわけで、石牟礼道子『苦海浄土』を図書館で借りて読んでみることにしました。
かいつまんで、引用します。


石牟礼道子『苦海浄土』(講談社文庫、2004年)

 

工場廃水の水銀が引き起こした文明の病・水俣病。この地に育った著者は、患者とその家族の苦しみを自らのものとして、壮絶かつ清冽(せいれつ)な記録を綴った。本作は、世に出て30数年を経たいまなお、極限状況にあっても輝きを失わない人間の尊厳を訴えてやまない。末永く読み継がれるべき<いのちの文学>の新装版。


順序が前後しますが、水俣病の基礎知識として、原田正純先生の解説を先に紹介します。
良くまとまっているので、水俣病の患者さんのおかれた状況の背景がよく分かります。


『苦海浄土』

□第1章 椿の海
□第2章 不知火海沿岸漁民
□第3章 ゆき女きき書
□第4章 天の魚
□第5章 地の魚
□第6章 とんとん村
□第7章 昭和四十三年
□あとがき
□改稿に当って〔旧版文庫版あとがき〕
□解説 石牟礼道子の世界   渡辺京二
■解説 水俣病の五十年    原田正純
 □あのときの石牟礼道子さん
 □水俣病の発生と背景
 □原因と原因物質
 ■見舞金契約と認定制度
 □生まれつきの水俣病?
 □過ちは繰り返された
 □棄てられた患者たち
 □救済の壁
 □何が解決になるのか

 


『苦海浄土』

解説 水俣病の五十年

原田正純

見舞金契約と認定制度


原因物質が明らかになり、被害者は当然加害者に対して償いを求めた。チッソはこのとき、内部での動物実験で原因は自社であることが明らかになった事実を隠し、時の熊本県知事立会いのもと、恫喝に近いかたちで1959(昭和34)年12月30日、患者たちと見舞金契約を結んだ。
見舞金契約の補償金は、患者互助会の300万円の要求に対して、死者30万円、成人は年に10万円、未成年者は3万円を支払うという低いものであった。とくに、子どもの患者の将来を考えた親たちは金額の引き上げを要求した。「運賃だって半額ではないか、せめて5万円を」という声も無視された。
さらにその契約の中には、巧妙に被害を矮小化する策動が隠されていた。それは、契約の第三条「本契約締結日以降において発生した患者(水俣病患者診査協議会の認定した者)に対する見舞金についてはチッソはこの契約の内容に準じて別途交付するものとする」にあった。
このときから、患者の選別のための認定制度が始まったのである。いいかえれば、水俣病の医学的判断(診断)が見舞金受給資格の認定にすりかえられてしまったのである。以後の約10年間は、胎児性患者を除くと新しい患者は認定されず、この認定制度は水俣病の救済の大きな壁となってしまった。
残念ながらそのとき、被害者の側はそのことに気がつかなかった。この見舞金契約が悪質なものであったことは、1973(昭和48)年3月20日の水俣病裁判の判決で「被害者の無知に付け込んで行なわれた契約で、公序良俗に反して無効である」とされたことからも明らかである。その後1968(同43)年の政府の正式公害認定まで、長い沈黙の時期が続いた。
その後、約30年にもわたる長い裁判の過程で「何が水俣病か」が争われ、病像論が一つの大きな争点となったのは、このときに始まった認定制度のためである。水俣病の病像(診断基準)が初期の限られた急性激症の患者に閉じ込められてしまったことは、水俣病の歴史の中で問題解決を遅らせるばかりでなく、何よりも、実態の解明を困難にした。その壁のために膨大な時間とエネルギーが費やされねばならなかった。
当時、患者の側も、水俣病を隠蔽しようとした。悲しいことだが、魚が売れなくなることを恐れた漁師や家族たちの中には、水俣病と思っても認定申請もしないまま自宅に隠れ、そのまま死亡した者もいた。このような患者は、永久に水俣病患者の数の中には入らないばかりか、水俣病の実態を明らかにできない理由にもなった。
 


【解説】

チッソはこのとき、内部での動物実験で原因は自社であることが明らかになった事実を隠し、時の熊本県知事立会いのもと、恫喝に近いかたちで1959(昭和34)年12月30日、患者たちと見舞金契約を結んだ。
見舞金契約の補償金は、患者互助会の300万円の要求に対して、死者30万円、成人は年に10万円、未成年者は3万円を支払うという低いものであった。

 

患者の無知につけこんだ、とんでもない見舞金契約だったのですね。

のちにそのことを知った患者たちが怒り出すのも無理はありません。


獅子風蓮