寮美千子さんは、「奈良監獄物語」という絵本も出しています。

 

 


絵本ですから、分かりやすいことばで、「奈良監獄」を主人公にして話がすすみます。

すてきな絵本ですが、文章のみ紹介したいと思います。


目次

□坂の上の赤煉瓦
□美しい刑務所
□明治五大監獄
□黒船来航と不平等条約
□ギス監から近代的監獄へ
□囚人たちが積んだ赤煉瓦
□五翼放射状舎房
■暗い時代
□阿修羅さまたちの疎開
□若草理容室
□花火
□監獄法の改正
□やさしさを響かせる楽器
□取り壊しの危機
□町の人々の願い
□喜びと悲しみ
□別れの演奏会
□未来への船出
資料編
・奈良監獄建築配置図
・明治五大監獄
・旧奈良監獄の歴史


暗い時代
 

けれども振り返れば、美しい話ばかりではなかった。
悲しく残酷な時代もあった。
ギス監時代には、天理教教祖の中山みきが繰りかえし投獄された。
人類の平等を唱えたためだ。

1922年(大正11)、わたしの名は「奈良刑務所」に変わった。
日本はアジア各地を植民地化し、その勢力をさらに広げようとしていた。
やがて、共産主義者や、植民地主義に反対する者は「反政府的」とされ、
「思想犯」として投獄されるようになる。
「人の世に熱あれ、人間に光あれ」という
「水平社宣言」を起草した西光万吉も、そのひとりだ。
部落差別をなくす「全国水平社」を起こしたメンバーだった。
「思想犯」たちの舎房は、ひと部屋おきだった。
たがいに言葉を交わさないようにするためだ。
自由であるべき人の心を、権力が制限し、裁く。
考えを変えろと強制する。
そんなことが行われていたことを、わたしはしっかり、覚えていたい。
もう二度と、そんな時代がこないように。



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獅子風蓮