寮美千子さんは、「奈良監獄物語」という絵本も出しています。

 

 


絵本ですから、分かりやすいことばで、「奈良監獄」を主人公にして話がすすみます。

すてきな絵本ですが、文章のみ紹介したいと思います。


目次

□坂の上の赤煉瓦
□美しい刑務所
□明治五大監獄
□黒船来航と不平等条約
□ギス監から近代的監獄へ
■囚人たちが積んだ赤煉瓦
□五翼放射状舎房
□暗い時代
□阿修羅さまたちの疎開
□若草理容室
□花火
□監獄法の改正
□やさしさを響かせる楽器
□取り壊しの危機
□町の人々の願い
□喜びと悲しみ
□別れの演奏会
□未来への船出
資料編
・奈良監獄建築配置図
・明治五大監獄
・旧奈良監獄の歴史


囚人たちが積んだ赤煉瓦

1901年(明治34)、いよいよ奈良監獄の工事が始まった。
場所は、奈良坂の上の般若寺町。
しかし、じゅうぶんな広さがない。
山を削り、谷を埋めて、土地をつくることになった。
地盤が悪くないかって? だいじょうぶ。
明治の技術者たちは、ちゃんと考えてくれた。
基礎の杭を、谷底まで深く打ちこんだのだ。
だから、わたしはこうして100年を超えたいまも、
しっかり建っている。
目に見えないところまで、
全力で取り組んでくれた証明だ。

埋め立てが終わると、工事が始まった。
煉瓦を焼き、積みあげたのは、奈良監獄の囚人たちだった。
近くの瓦屋の親方が、煉瓦のつくりかたを教えてくれた。
「自分を閉じこめる壁を、自分で積むなんてな」
そうぼやきながらも、彼らはよく働いた。
イ組、ロ組、ハ組……と組分けをされ、競いあって煉瓦を焼く。探せばいまも、組の名が刻印された煉瓦が見つかるはずだ。

西洋式の赤煉瓦に、和風の黒い瓦屋根がよく映えた。
「おどろいた。これが監獄かい。まるで西洋のお城だ」
彼らも、どんなに誇らしかっただろうか。
手づくりの煉瓦は品質が高い。
現代の工業製品でもまねのできない美しさもある。
この煉瓦は、わたしの自慢だ。
ありがとう、塀の中の煉瓦工たち。



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獅子風蓮