寮美千子『イオマンテ-めぐるいのちの贈り物』(ロクリン社、2018.02)
絵がとてもすてきな絵本ですが、文章のみ紹介したいと思います。
(つづきです)
若者は、キムンカムイ(やまのかみ)の肉と毛皮をもちかえり、
酒とイナウ(ごへい)をささげて、ていねいに送った。
その夜のことだ。夢にキムンカムイ(やまのかみ)があらわれた。
「若者よ。どうか、あの赤毛の熊も送ってやってくれ。
このごろ、山にはたべものがなく、
強い熊なら生きていけるが、弱い者はどうしようもない。
あれは、おろかな峰尻の熊。
しかたなしに山をおりたのだ。
強いからではない。
弱いからウェンカムイ(わるいかみ)になったのだ。
どうか、ゆるしてやってくれ。
ただ一本のイナウ(ごへい)でいい。
祀ってやってほしい。
あれもカムイ(かみ)のすそに名をつらねられる。
心をいれかえ、おまえの守り神になるだろう。
わたしも、おまえが死ぬまで、
おまえを守りつづけよう」
若者は、きれいなイナウ(ごへい)をつくり、
赤毛の熊を祀った。
すると、森には鹿がもどってきて、
川には鮭がのぼってきた。
それからというもの、
コタン(むら)は二度と飢えることがなかった。
やがて若者は、美しい女を妻にし、子どもにもめぐまれた。
山にいけば、いつも必要なだけのえものがとれ、
これといってほしいものもなく、たべたいものもないというほど、
なにもかもがみちたり、しあわせにくらした、ということだ。
(つづく)
獅子風蓮