寮美千子『イオマンテ-めぐるいのちの贈り物』(ロクリン社、2018.02)
絵がとてもすてきな絵本ですが、文章のみ紹介したいと思います。
(つづきです)
ある年のこと、
太陽は雲のむこうで白くかすんでいるばかり、
秋になっても、木の実は実らず、
畑の稗(ひえ)も実がはいらない。
鹿は森から消えてしまい、
鮭もすこしものぼってこない。
赤毛のあばれ熊が山からおりてきて、
夜な夜なコタン(むら)をおそった。
あのウェンカムイ(わるいかみ)をやっつけてくれと、
若者はみんなにたのまれた。
その夜、若者は夢をみた。
子どものころにいっしょにくらした、
あの子熊の夢だ。
子熊はひとり、夕ぐれの川原で、
ぼんやり空をながめていた。
雲のふちを金色にかがやかせた光が、
空いっぱいにひろがっていた。
子熊は、こちらをふりむくと、
なくようなわらうような顔をしたのだ。
めざめると、若者はおもった。
ああ、あの子熊がウェンカムイ(わるいかみ)になったのだ。
子熊よ、あんなにやさしくしたのに、
なぜそんなものになったのだ。
若者は、首からかけた紐をちぎってなげた。
紐のさきには、あの日の花矢がついていた。
(つづく)
獅子風蓮