寮美千子『イオマンテ-めぐるいのちの贈り物』(ロクリン社、2018.02)

 

 

絵がとてもすてきな絵本ですが、文章のみ紹介したいと思います。
 


(つづきです)

ぼくは、アイヌ(にんげん)の男の子だ。

夜が明けると、野にも、
たかくかかげられた子熊の頭にも、
うっすら、雪がふりつもっていた。

「ゆうべ、あんなに晴れてたのにね」

そういうと、エカシ(ちょうろう)はとおい山をみつめ、
おおきくひとつ息をした。

「キムンカムイ(やまのかみ)が、
ご自分の足跡を消すために
雪をおふらしになったんだ。
ふしぎなもんだ。
それがどんなに晴れた夜だろうと、
キムンカムイ(やまのかみ)をお送りしたあとは、
かならず夜明けに雪がふる。
さらさらと流れるような粉雪が」

しんとつめたい風のなかに、
光の粉が舞っていた。


『熊の子を洗う雨』がふったのは、
それからまもなくのことだった。



(つづく)


 


獅子風蓮