寮美千子『イオマンテ-めぐるいのちの贈り物』(ロクリン社、2018.02)

 

 

絵がとてもすてきな絵本ですが、文章のみ紹介したいと思います。
 


(つづきです)

わたしは、ちいさな熊のカムイ(かみ)だ。

夜になると、エカシ(ちょうろう)が
ユカラ(うたものがたり)を語ってくれた。
ろばたをたたいて拍子をとって、
手に汗にぎる大冒険。
さあ、どうなるか、どうなるか、
さあ、いまこそ、とおもったとたん、
エカシ(ちょうろう)はぷつりと、やめてしまった。

「このつづきは、またこんど。
ふたたびコタン(むら)に、いらしたおりに
ゆっくりおきかせいたしましょう」

ああ、きっともどってこよう。
かならずここに、もどってこよう。
わたしは、かたく心にきめた。


いよいよ別れのときがきた。
たかだかとイナウ(ごへい)がかざられ、
わたしは、闇のなかへとあゆみだす。


星々が、おそろしいほどきらめいていた。
美しい花矢が、山のいただきめがけてかけてゆく。
光の粉をまきながら、深い闇を切りさいてゆく。
空にひしめく魔物はしりぞき、銀の道があらわれる。
カムイ(かみ)の国へとつづく道だ。


アイヌ(にんげん)のくれた酒のひと滴(しずく)は、
カムイ(かみ)の国の六樽の酒。
山のようなみやげをせおい、わたしは銀の道をゆく。

カムイ(かみ)の国がちかづくと、そこらはまばゆくかがやいて、
光のなかから、かあさんの声がした。
「おかえり、ぼうや。おおきくなったわね」



(つづく)


 


獅子風蓮