というわけで、ガーシーに興味を持った私は、こんな本を読んでみました。

伊藤喜之『悪党-潜入300日ドバイ・ガーシー一味』(講談社+α新書、2023.03)

 

 

□プロローグ
□すべてを失い、ドバイにやってきた男
□ガーシーとの出会い
□秘密のドバイ配信
□急展開の示談成立
□幻のインタビュー「自分は悪党」
□参院選出馬
□FC2創業者
□朝日新聞の事なかれ主義
□元ネオヒルズ族
□ガーシー議員の誕生
□黒幕A
□元大阪府警の動画制作者
□元バンドマンの議員秘書
□ワンピースと水滸伝「悪党」と「正義」
□嵐のバースデー
□モーニングルーティン
□年商30億の男
□王族をつなぐ元赤軍派
□痛恨のドバイ総領事館事件
■近親者の証言
□エピローグ


■近親者の証言


大阪の親友 会社役員の男性(51)

16歳ぐらいのころから走り屋チームのトップの人にすごくお世話になるようになって、そのうち世代交代もあって、俺はリーダー格を任されるようになった。俺らのチームはヤクザの息子とか、部落解放同盟の幹部の息子とか、ボンボンだけど育ちは悪いみたいなメンバーが集まってできたようなチームでね。そのうち、ただヤンチャしているような連中も加わって膨らんでいった。
ナンバーもつけないシビックとかレビンとか、いかつい車で大阪環状線に上がり、料金所は当然払うこともなく突破して、一般車をすり抜けながらかっとばす。「環状族」とか呼ばれてたけど、まさに南勝久の漫画『ナニワトモアレ』の世界やね。まだ、あれは実際ほど、エグくは描いてないけどな。毎日なんかトラブルがあって、走り屋チーム同士とかで、喧嘩ばっかりしていた。暴対法もできる直前のころで、俺らも暴力団組織の準構成員みたいな感じで、トラブルになったらケツ持ちの組の名前を出したし、現役のヤクザも普通に喧嘩に出てくる。実際になんでも許された時代でした。
メンバーは皆、結構、悪さもやったよ。強盗、恐喝、クスリの売買とかをやっている奴もいた。チーム同士の喧嘩の末に死んだやつも、下半身不髄とかになったやつもいたよね。環状線ではトラックに突っ込んで死んだやつもいたし、そういうことがしょっちゅうあった。
カズ(東谷の呼び名)と出会ったのは、もうはっきり覚えてないけど、あれは20歳をすぎた時ぐらいかな。俺が走り屋の活動からは少しずつ距離を置くようになっていたころだったかな。大阪の後輩を通じて、たまたま出会った。向こうも別の走り屋チームに入っていて、俺の顔は以前から知っていたみたいで。それでなんや知らんけど、仲良くなって、いつの間にか毎日のように大阪ミナミのクラブやディスコに行ったりして遊ぶ間柄になっていた。
なんで気が合ったのかって? カズの空気感がいいんじゃないですかね。相手に気を遣わせないし、あっちも気も遣わんし。カズが東京に出てからは、タレントをあいつに紹介されて飯に連れて行ったりもよくしました。
あいつがドバイ飛ぶ前のこと、Z李がBTS詐欺の件を晒す前だったと思う。カズからもう死ぬとかメッセージがきて、俺は「そんなこと言わんと連絡してこいよ」って返した。死にたいほど苦しい気持ちはたしかにあったと思うけど、本当に死ぬとは1ミリも思っていなかった。その後、俺ともう一人、カズと共通の先輩がいて、2人でカズに会って直接、BTS詐欺の詳しい状況を聞いて、どうにか問題を解決できないかと考えていた。でも、被害総額が最初に言ってた額からだいぶ膨らんだりして、俺もその先輩も「ちょっと俺らの手に負える状態じゃないな」という感じだった。
だから、俺もシンプルにカズには「(警察に)もうパクられたほうがいいんちゃうの」と 伝えていた。そのほうがカネの整理とか清算もできるし。清算した後に懲役行くんか、執行猶予になるか。そこから助けられる部分はみんな助けるだろうし。そんなやり取りをしているうちにカズとは連絡がつかなくなった。
あいつも上がったり下がったりの人生で、それまでも高額の借金をしてそれなりに清算したりして復活したりしてきたから、本人的には何とかカネを返す道を最後まで模索してたんやろなあ。
その後、気づいたらドバイに飛んどったなあ。ガーシーCHが始まる前に、カズから連絡 がきて「YouTubeやる」って聞いたけど、こいつ何言ってんねんとは思ったよ。暴露は良いことではないよ。人のネタを売ってメシを食うっていうのは良くはないよね。でも、カズは友達やから。人殺して懲役行ってきても友達は友達やから。それに、あいつにも線引きがあって、心から友達だと思えた人間は売ってないと思う。売っているヤツはある意味で商売上の付き合いのやつなんちゃうかな。カズが暴露を好き好んでやっているわけじゃないのはわかっているから。
カズの本のタイトルにもなっていたけど、あいつ暴露をやるのに「死なばもろとも」って言葉を使っているやろ。そもそも、あれって走り屋をやっていたころから俺らが根本にしていた精神なんよね、腹を括って何かをやって、自分一人だけでは死ねへんでという気概というか。「そんなもん死なばもろともやんけ」っていうような。もしも何か悪さをして自分が沈んでいくんやったら、同じぐらい悪さしている奴も一緒に沈めたるで、と。
だからといって、暴露がええか悪いかは別やけどね。あいつから紹介してもらって俺も仲良くなった芸能人の友達とは連絡をとったんやけど、「あいつが腹を括ってやってるんなら見守るしかないな」という結論になった。
カズがヤクザとか半グレに抵抗感がない? まあ、それは答えが難しいなあ。日本にいた時から、元ヤクザだろうが半グレだろうが現役だろうが詐欺師だろうが、たしかにカズはいろんな人間と付き合いはあったと思う。ただ、あいつも経営者だったから、そこまで腹割ってそういう奴と付き合いしていたかというとそうじゃない。従業員もおったし、責任もあるから尚更な。でも、真面目に育った人みたいに、そういう人たちと絶対に会話もしたくないって断るタイプでもない。そういうヤツやろうなあ。
    (2022年夏、大阪市北区のホテルで取材)

(つづく)


解説

暴露は良いことではないよ。人のネタを売ってメシを食うっていうのは良くはないよね。でも、カズは友達やから。人殺して懲役行ってきても友達は友達やから。それに、あいつにも線引きがあって、心から友達だと思えた人間は売ってないと思う。売っているヤツはある意味で商売上の付き合いのやつなんちゃうかな。カズが暴露を好き好んでやっているわけじゃないのはわかっているから。

 

若い頃にはずいぶんやんちゃをした、親友の男性ですが、現在は社会人としての常識を、ガーシーより持ち合わせているようです。

ガーシーは、東京に出てくる前、大阪でずいぶん派手なことをして、居づらくなって上京したと書いていましたが、大阪時代の人間関係を大切して真っ当に生きていたら、ずいぶん違った人生だったのかもしれませんね。

 

 

カズの本のタイトルにもなっていたけど、あいつ暴露をやるのに「死なばもろとも」って言葉を使っているやろ。そもそも、あれって走り屋をやっていたころから俺らが根本にしていた精神なんよね、腹を括って何かをやって、自分一人だけでは死ねへんでという気概というか。「そんなもん死なばもろともやんけ」っていうような。もしも何か悪さをして自分が沈んでいくんやったら、同じぐらい悪さしている奴も一緒に沈めたるで、と。

「死なばもろとも」という言葉を、何かかっこいいことと勘違いして使っていますね。

これが「走り屋をやっていたころから俺らが根本にしていた精神」だとしたら恐ろしいかぎりです。

違法なことをして、追い詰められて死ぬときは、周りの人間を巻き添えにしてやるということでしょう。

周りからしてみたら、いい迷惑です。

「死なばもろとも」……

こんな言葉があったから、ガーシーは、金策に困ったあげく、かつての友人の秘密を暴露してカネを稼ごうなんて思ったのですね。

ある意味納得しました。



獅子風蓮