前回の話はあやしかったですか?


「人間の生命というか意識は、4次元空間からこの現世である3次元空間に送りこまれて生まれ、死ぬと現世から離れて、4次元空間に戻っていくのではないでしょうか。」
なんて言われても、そもそも「4次元空間なんてほんとにあるの?」と突っ込まれたら答えに窮します。


実は、これまでの次元に関する考察は、あくまで数学(幾何学)上の話なんです。
この世が3次元か4次元かなんて、数学の知ったことではないのです。


これに対して、物理学とか生物学とか自然科学は、あくまで自然界を対象とします。
自然界は現実にどのようになっているのか、それが自然科学の知るべき対象です。
そのために数学を研究手段として利用しますが、利用はあくまで利用です。

物理学では数学と違って、観測や実験の結果得られた事実だけが真実です。
私たちの住む空間には、縦、横、高さの3つの次元がありますが、第4番目の次元というのははたして存在するのでしょうか。

さて、物理量とは、縦、横、高さの3つの次元と時間によって表されます。
数式で書くと、ψ=ψ( x,y,z,t )です。

でも時間 t がそのまま第4番目の次元というわけではないのです。
時間は一方通行で、未来から過去にもどることはできません。
ほかの次元とは明らかに性質が異なります。

3次元空間内での棒の長さ(ℓ)は、棒の片方を原点に、もう一方を点(x,y,z)にあるとすると、次のようになります。
ℓ =√(x2+y2+z2)
このような ℓ を不変量といいます。
そうして3つの成分(x,y,zを長さ ℓ の成分という)の2乗の和が不変量になるとき、ℓ という長さの存在する空間が3次元なのです。
もう少し一般化すると、次のようになります。
「n個の成分の2乗の和が、測定の方向にかかわらず不変量になるならば、その空間はn次元である」


さて、アインシュタインの特殊相対性理論によると、何を置いてもまず光速度(c)が一定であるとされます。
皆さんも聞いたことがあると思うのですが、光速に近い速度で移動するロケットの中では、地上からみた時間の進行が遅くなるのです。
またロケットの長さは短くなるのです。
これをローレンツ収縮といいます。

座標変換にガリレオ変換とローレンツ変換というものがあり、光速に近い速度を取り扱う場合は、ガリレオ変換ではなく、ローレンツ変換でなくてはならないということです。

ローレンツ変換:

           
このローレンツ変換の式をいじくっているうちに、次のような関係が分かります。

(x-x´)2+(y-y´)2+(z-z´)2-c2(t-t´)2=const.

まえに伏線を張っていたように、4つの成分の2乗の和が不変であるような空間が、4次元空間です。
とうとう、4次元空間を探し当てることができました。
4本の直交軸は、x,y,zとそれに i ct です。
c は光速度、t は時間、i は2乗すると(-1)になる数、虚数単位です。
とにかく、i ctが第4番目の次元になるのです。
これはけっして空想の話ではありません。
自然科学の中から生まれた、事実の話です。

さて、3次元空間で棒を傾けるということは、x2+y2+z2 という不変量のうちで、たとえば x を小さくして、z を大きくすることです。
これと同じように考えると、4次元時空間の不変量 x2+y2+z2ー(ct)2 のうちで、x を小さくするということはどういうことか。それは棒を x 方向に非常に速く走らせることに相当します。そのとき、ローレンツ変換の式からわかるように、第4番目の項 ー(ct)2 も変化して、4つの項の和が一定に保たれるわけです。
このことを4次元の世界での操作に翻訳すると、棒を走らせるということは、第4番目の軸にそって棒を傾けるということと同じになるのです。
こうして、棒は縮みます。
いかに頑強な金属棒でも、走らせさえすれば縮むのです。
この縮みをどう説明すればいいのか。
x  が小さくなって ー(ct)2 が変化するというのは、棒がだんだんと4次元空間の中に入り込んでいったと解釈するのが最も自然ではないでしょうか。
棒の片方の端が、第4番目の時間軸の方向に傾き始めたのです。
時間軸に垂直な3次元断面の中におとなしく収まっていなくなったのです。

アインシュタインの一般相対性理論では、さらにすすんで、次のように言われています。
重力は「4次元時空の曲がり」で生じる。


詳しい説明は省略しますが、物理学では「4次元時空」として、4次元空間の存在はもはや疑いようのない存在なのです。

(画像はNewton別冊「次元のすべて」より、文章の多くは都築卓司『四次元の世界』より引用しました)

つづく。