里山と熊鈴と私(西吾妻山) | 里山と熊鈴と私

里山と熊鈴と私

朝寝坊と山を愛するあなたへ。日帰り、午後のゆるゆる登山。

 そんなこんなで、日本百名山のひとつ、西吾妻山へ行く。

 昨年の、東吾妻山の続き。これで、一応、「我れ吾妻山に登れり」っていう格好がつくであろう。

 久しぶりの2,000m越えである。

 

 なんだかんだで、家を出るのは8時ちょっと前になってしまった。

 今日は東北一帯、すべからく快晴である。

 

 たまりにたまった仕事、コロナ禍、熊さんの出没が頻発と、阻害要因は多々あれど、この快晴の下、どこにも行かないという選択肢はあり得ないのであった。

 

 米沢八幡原ICで降りる。

 ん?県道を左に折れると、圧倒的な田舎道。

 こりゃ、コンビニはおろか、自動販売機すら探すのに難儀するだろう。

 それにしても、良い天気。

 

 案の定、白布(しらぶ)温泉に着くまで、1軒のお店にも出会わなかった。

 

 10:18、白布温泉着。わあ、ひなびてなかなか良い感じの温泉場である。それを抜けて、左に曲がれば、ロープウェイ乗り場がある。

 

 天元台スキー場。ずいぶん昔、ここにも滑りに来たことがある。

 確か、雪質は最高だったと思うけれど、とにかく、寒いのなんの、って。

 寒さしかほとんど、記憶に残っていない。

 

 と、駐車場整理のオジサンに誘導されて、道脇の砂利広場に駐車。40台位は置けるかな?

 ちょっと歩いて、乗り場へ。20分間隔での運行。

 一番上までのチケットを買う。片道で2,200円。

 

 結構なお客さん。夏休み最後の休日ということもあってか、親子連れもちらほら。

 かなり密な環境下でゴンドラに揺られ、広々としたスキー場に到達。

 子供用の遊具なんかが設置されて、楽しげな雰囲気。

 ここから3回、リフトを乗り継ぐ。

 最後のリフトの係員さんは、なかなかなイケメン。日焼けした精悍なマスクといい、体格と言い、ただものではない雰囲気。アルペンか、スノボか分からないが、おそらく、アスリートなのだろう。

 

 オフシーズンは、こういうところでバイトしているのかもしれない、と勝手に妄想しつつ、登山口へと向かう。

 

 最上部の降り口に設置されている「安全の鐘」を「コーン」と打ち放し、11:23、登り始める。

 ふーむ。勾配はそれほどでもないが、コロコロした石が連なる道。表面がすべすべなもので、歩くのに集中力が求められる。

 11:40、見晴らしの良い場所に出た。

 それまで、岩だらけの道を一心に登りつめ、ベテランらしき60歳くらいのオジサマと密かにデッドヒートを繰り広げていたのだが、ほぼ同時に到着。

 

 オジサマに「お疲れ様。」と声をかけられる。

 その声音に、「なかなか、やるじゃないの!」という、成分が含まれていたのが嬉しかった。

 

 暑い暑い。そこを過ぎると、俄かに勾配が緩み、気が付くと湿原に出ていた。

 木道が伸びている。そして、この景色。

 11:51、人形石と大凹(おおくぼ)方面へとの分岐。ここは、人形石方面へと向かう。

 

 と、ここで景色に気を取られるあまり、どこかでマスクを落としていることに気づく。あら。山を汚してはならぬ、と後戻り。あったあった。さっきの分岐点近くにひっそり落ちていたのを回収。

 

 そんなこんなで、12:10、人形石着。ここも眺めが良い。

 ここから大凹まで回遊できる道があるようなのだが、どうにも見つけられず。

 どうやら、植生保護のため、閉鎖されていたようだ。

 

 もと来た道を戻り、さっきの分岐点を大凹方面に向かう。

 

 この辺はお花畑らしい。

 すでに盛夏、花のシーズンは過ぎていて、ちらほらといくつかの花を見かけるばかり。

 これまたツルツルする沢を登り、12:41、大凹の水場着。

 美味しそうな水である。2、3口、含ませていただく。

 ここからは、ぐうっと山登りっぽくなる。

 大岩がごろごろする、急こう配を登っていく。

 

 と、10分ほどで階段道となり、その先は、新たな湿原に出くわす。

 のどかな池塘群。いろは沼、というらしい。手前に東吾妻山、その奥に安達太良山が見える。

うつくしい。

木道が伸びるその先が、天狗岩らしい。

 

 で、13:11、天狗岩。これまた、自然の造形の妙というか、ランダムな岩の連なり。

すごい。そして、ここからの眺めも素晴らしい。

 程なく、岩だらけの広場に出て、そこの吾妻神社に参拝。

 なだらかな頂上はすぐそこなんだけど、イマイチ、道が分かりにくい。

 山頂へ直接続く道があるようだが、良く分からず、西吾妻小屋方面へと向かう。

 

 13:40、木道をしばらく歩き、小屋を通り過ぎたあたりで、頂上への分岐を左に曲がる。

 と、ここで、南側の景色が開け、磐梯山と、その向こうに猪苗代湖が見えた。

 これまた、良い景色である。

 

 再び灌木の中の道を登りつめれば、13:50、西吾妻山の頂上(2,035m)。

 やっぱり、なあんにも、なかった。木が生い茂っていて、眺望もきかない。

 しずかだ。鳥のさえずりが聞こえるばかり。

 

 鈴の音が聞こえてきて、誰か登ってくるようだ。それをしおに、下山開始。

 西吾妻小屋に行ってみる。

 なるほど、かなり年季が入っているけれど、しっかり手入れがされているようだ。

 看板があって、「荷物を数日にわたって放置しないでください。遭難と間違われますから」

って書いてあった。なるほど、確かに。

 

 そこの裏手に腰かけて、本日初めての休憩。

とにかく、この程度の山歩きであれば、小生はピークハントまで、無休憩・無補給が原則である。

 

 体には悪いかもしれないが、我慢に我慢をして、登りつめ、休憩タイムでではじめて、きゅーっと体に水分・塩分・糖質を流し込むのが、たまらなく気持ちが良い。

 

 麦茶にしろ菓子パンにしろ、紙パックのジュースにしろ、たとえセブンアンドアイホールディングスのPB商品であったとしても、たまらない美味である。

 

 ちょっとガスって来た。そろそろ出発。

 と、ここでついつい、磐梯山の景色に引き寄せられて、西大巓(にしだいてん)方面へと下ってしまう。

 この辺りは冬、樹氷が大いに育つそうで、冬山登山の人気コースであるようだ。

 今日は、途中で荒い息をしたオジサマ1名に出会ったのみ。

 

 写真を撮りつつ、下っていたら、とうとう西大巓の頂上への道が見えるところまで降りてしまった。

 

 ふーむ。思案。西大巓の頂上は360度の絶景らしく、たいへんにそそられるけれど、このまま白布峠方面に下ったのでは、真っ暗な中、車を取りに、スカイバレーを天元台までテクテク歩くことになる。

 

 そういうのも、好きなんだけれど。

 でも、明日は出勤だし、ちょっと考え直して、若女平コースを大人しく帰ることにする。

 

 これが良かったのか、どうか。

 

再び登り返し、西吾妻小屋を過ぎてすぐの分岐路、細くて心もとない道を進む。14:51。

 

 と、これが。

 とんでもない、悪路。

 まいったまいった。この辺りの地質、岩質なのだろうけれど、

 とにかく、岩もツルツル、木の根もツルツル、沢水の水たまりも、泥土もツルツル、どこを取っても滑りまくりなのである。

しかも急こう配。

 

 ガイドブックには、「滑りやすいところもある」とあるけれど、滑りやすいところ「しか」、ない。

 

 樹林帯の中を、とにかく一歩一歩、慎重に見極めながら進む。

ふう、尻もちをつくことは1度もなかったけれど、結構、疲れる。膝にも、クル。

 

 それにしても、あまりの荒れっぷりに、これ、本当に道かなあ、と、不安になる。

 たまに黄色い看板があって、間違いなく、登山コースではあるようだ。

 

 そして、たまに靴跡も発見。まだ新しい。ちょっとホッとする。

 

 と、勾配が緩み、若女平っていう湿地帯に入ったようだ。

 でも、平場だと思ってうかつに足を突っ込むと、底なし沼みたいに、くるぶしあたりまで持っていかれる。わあ。

 

 でもまあ、こんな妙なる自然の造形にも出会い、それなりに面白くもあったのだった。

 ホエーホエー、と叫び声がする。サルかな?

 ちょっと立ち止まり、熊鈴を揺らし、ストックで笹の葉を打ち鳴らしていたら、やがて、聞こえなくなった。

 

 途中、赤い三角の標識が道端にあって、「金小屋」なんて書いてある。どういう由来なのかは不明。

 次第に尾根歩きとなり、16:47、右の視界が開け、スキー場のリフトが見えた。

 

 山道を走る車のエンジン音が聞こえてくる。人間界は近い。

 

 17:18、登山口着。結局、下山道では誰にも出会わなかった。

 

 いやはや、こんなに難儀した道は久しぶりである。結局、西吾妻小屋から2時間半もかかってしまった。

 この道は、冬場、雪が積もった状態だと、歩きやすくなるのかもしれないですね。

 

 と、ここでちょっと大きめの沢があり、木製の橋が架かっているんだけど、いつかの豪雨の影響か、斜めに傾き、苔むした表面が、いかにもツルっといきそうなのである。

 橋は回避し、沢に降りて渡渉できるポイントを探す。

 橋の上流側にはきれいな淵があって、ダブルの小さな滝も。

 なかなか面白い景観。だけど、「〇〇の滝」とか、そんな標識は特に見当たらず…。

 

 ドロドロになった靴とズボンのすそを沢水で洗いつつ、ポクポク下り、17:30、舗装道路に出た。

 10分ほど、駐車場まで歩く。この段になって、登りの道はキツいなあ。

 

 17:41、なつかしい我が愛車と再会。

 案の定、我が車しか残っていなかった。

 

 昼間とは打って変わって、閑散とするロープウェイ乗り場。係の方もそろそろ帰ろうか、という時間帯であった。

傾いた日差しが、メランコリックな雰囲気。しずか、である。

 

 屋外のトイレを借りる。ここの水は飲用可能であるようで、思わずガブ飲み。

そして、ちょっと車の中で休憩。

 

 ふう。なんとか、フィニッシュ。

 カナカナと、ヒグラシが哀しく鳴く道をふもとの街まで。

 西吾妻山。お手軽に、絶景を楽しめる東吾妻山と比べると、地味な印象もあるけれど、随所に絶景ポイントがあって、なかなか味わい深い山であった。

 

 次回、若女平コースを利用するかは要検討。白布峠、あるいはグランデコスキー場から西大巓経由で西吾妻山、ってコースもあるらしい。

 

 なんだかんだで、今日も、良い旅をした。艱難汝を玉にす、ってことで。

 いつか、また、来ましょう。

(2022.8.21)