『プレバト!!』の夏の俳句タイトル戦「2023年炎帝戦」を見ました。今年の炎帝戦も昨年と同様、才能アリ経験者が事前に投句し、その中で上位15名がスタジオに呼ばれ、11位以下はTVerでのみ公開という方式でした。

この方式の良いところは名人・特待生以外の人が参戦することで新鮮味が感じられたり波乱が起こったりするところにありますが、今回に関してはその参戦枠も半ば固定化してしまっていて意外性に乏しく、また、波乱らしい波乱もなかったように思います。

お題は「行きつけのお店」でした。

 

15位は嶋佐和也さんの

夏惜しむキープボトルを一人呑む

一切おふざけなしで手堅く作ってきていて非常に好感が持てました。夏井先生からの講評も見ましたが、特に何がダメと言われていたわけではなく、むしろ「夏惜しむ」の選択や内容の素直さが褒められていたので、これでランク外は厳しいと思いました。嶋佐さんはいつか波乱を起こしてくれるんじゃないかと期待しています。

 

14位は星野真里さんの

混濁のスープ青山椒の蒼

こういった対句表現は好きですが、夏井先生からの指摘にもあったようにどういうメニューなのか具体的な情報がほしいところ。あと、「蒼」だとあまりいきいきとした感じがしないので、全体的に美味しそうな句ではないんですよね。今『食卓で読む一句、二句。』という本を読んでいるので、余計にそう思ってしまいました。

 

13位は森迫永依さん(特待生3級)の

風青しカンロ杓子の三拍子

「三拍子」がどうも引っかかります。意味としては「カンロ杓子の音が三拍子のように聞こえる」みたいな感じだと思うのですが、ちょっと安易な比喩ですね。夏井先生の話によれば今回のテーマである「行きつけ感」が薄いとのことでこの順位まで下がってしまったようですが、今回のお題は人によって明らかに有利・不利があるように思いました。

 

12位は千賀健永さん(名人9段)の

鰻待つ今日は台本家に置き

悪くないんですけど、千賀さんらしくないフツーの句といった印象を受けました。(二つの意味で置きにいっているな、と。)「今日『は』」という助詞の使い方によって「行きつけ感」を出そうとしている配慮は高く評価されていましたが、季語が動く(鰻じゃなくて鱧でもいい)ということであえなくランク外となってしまいました。

 

11位は森口瑤子さん(名人6段)の

命日を集う紫陽花のレストラン

題材は良いのにもったいない句ですね。どこをどう直したら~って言われると困るタイプの句ですが、「レストラン」を「店」に換えて上手く音数調整することで「紫陽花」を主役にすることができたのではないか、という夏井先生の指摘には膝を打ちました。あと少し描写が足されて、さらに調べが整ったらグンと順位は上がりそうです。

 

10位は春風亭昇吉(特待生4級)さんの

キープボトル墓碑銘となる夏のBAR

「キープボトル」とあれば「BAR」は要りませんし、「墓碑銘」とあれば「ボトル」だけでも意味は通じますね。このあたりの引き算、他人の句だと気づきやすいのですが、自分の句となると途端に見えてこなくなるものなんですよね。ちなみに添削後の「晩夏なるBAR墓碑銘となるボトル」が今年の炎帝戦で一番好きな句でした。

 

9位は立川志らくさん(名人7段)の

西日溜める店影だけが呑んでる

西日が強いお店で(逆光で)影が呑んでいるように見えるという、発想だけで言えば上位に好きな句でした。特に「溜める」が良いと思いましたが、わりとありふれた表現なのだそうで、さらに「行きつけ感」を出すために「西日の店いつも影だけが呑んでる」という形に直されていました。元の句よりもさっぱりとして、俳諧味が増した感じがします。

 

8位は千原ジュニアさん(永世名人)の

焼酎やけふは店主に辞儀深う

「辞儀深う」としか書かれていないので、どういうシーンなのか読みに迷います。また、場面としては帰り際になりますが、「焼酎や」とあるので飲んでいる最中のようにも思われ、そこにも違和感を感じます。「自分の人生の中の一句として置いておくべき」ということで添削はありませんでしたが、前書きを付けるのもアリだったのではないでしょうか。

 

7位は村上健志さん(永世名人)の

じゃあそれとガツ刺し夕涼の酒場

「じゃあそれと」が良いですね。この「行きつけ感」の出し方はスマートだったと思います。「夕涼」が外のイメージであるのに対し「酒場」は屋内のイメージであるため、後半の展開を「夕涼の屋台」「夕涼の中洲」とする添削が示されていましたが、こういう「作品の質を上げるための小さな嘘」ってなかなか思いつきませんよね。

 

6位は藤本敏史さん(永世名人)の

土地区画整理末伏のタッカンマリ

フジモンさんの過去句である「歩行量調査戻り梅雨の無言」「魚群探知機朝寒のがなり声」「四時限目休講小春のキネマ」を彷彿とさせるつくりの一句。漢字が続くとどうしても字面が重くなってしまいますが、添削後の「地上げの噂末伏のタッカンマリ」はその問題も解消しつつかつ「土地区画整理」をされる側という立場もはっきりして流石です。

 

5位は伊集院光さんの

土用鰻大将すまん小ジョッキ

土用の丑の日で忙しい大将に申し訳ないと思いながらも小ジョッキを頼んだという内容の句だそうですが、一読しただけではそこまで読み取れませんでした。ただ、ビールと書かず「ジョッキ」とすることで季重なりを回避している工夫は上手いですね。また、三段切れについてもお店のてんやわんや感を出したくてあえてやっているのだとしたら凄いです。

 

4位は横尾渉さん(名人10段)の

古都眩し夜は酒場の氷店

昼と夜を行ったり来たりする感じが気になりました。また、作者がどこにいるのか、何をしているのかもはっきり見えてこないですね。夏井先生の言うとおりパンフレット片手に観光している人の句とも解釈できてしまいます。良いところがあって4位まで上がったと言うよりかは、順位を下げるだけの理由がないために4位になっている感じがします。

 

3位はかたせ梨乃さんの

鱧の皮あの娘再婚したらしい

もはやベテランの風格さえ感じられる一句。お客さんの台詞をそのまま書くことで「行きつけ感」の表現に成功しています。「結婚じゃなくて再婚なのが皮っぽくてちょうどいい」という評価が面白かったです。取り合わせの句でよく言われる「付かず離れずの距離感」というものを考えるうえでのヒントになりそうだと思いました。

 

2位は中田喜子さん(名人8段)の

呼び鈴のはんなり抜けて湯びき鱧

気持ちの良い句です。何と言っても「はんなり抜けて」が上手いですよね。これだけで京都であることがわかりますし、古風なお店の空気感まで伝わってきます。「湯びき鱧」というチョイスも上品です。個人的にはこの句の方が優勝に相応しいと思いました。オリジナリティという面でもこちらに軍配が上がる気がします。

 

1位は梅沢富美男さん(特別永世名人)の

水貝のさくりと清くまず一献

完成度は高いんでしょうけど、一句をとおして既視感があるんですよね。「水貝」に対して「さくり」というのも普通ですし、「清く」もよく見られる措辞です。そして何より「まず一献」という下五ですが、これは前に別の句の添削で使われていた記憶があります。添削から学んでいるという見方もできますが、これで優勝はちょっとモヤッとしますね。

 

全体的な感想としてはマンネリ感が否めず、また俳句甲子園優勝校との対外試合や天才小中学生との他流試合のようなチーム戦が見たいと思いました。

 

出演者・スタッフの皆様、お疲れ様でした。