『とにかく散歩いたしましょう』は、小説家・小川洋子さんのエッセイ集です。

ページ数は決して多くないものの、46篇ものエッセイが収録されているため、読み終えたときに満足感がありました。

 

一読して思ったのは、とにかく読みやすいということです。

わかりやすく、丁寧に話が広げられていくので、スラスラと読み進めることができました。

それから、一つ一つのエッセイの長さも程よいため、もう1篇、もう1篇という具合に、ページを繰る手も軽かったです。

 

収録されているエッセイの内容については、過去の思い出や現在の日常を書いたものもありましたが、やはり小説家のエッセイ集らしく、小説家ならではのものが多いという印象を受けました。

例えば「盗作を続ける」という1篇は、いわゆる「キャラクターが勝手に動き出す」ことについて触れており、それが作者にとって必ずしも楽なものではないということが緊迫感のある筆致によって伝わってきます。

また、「ふと、どこからともなく」は、小川さんがどのようにして小説を書き始めるのかがわかる1篇であり、私はこれを読んで小川さんの小説が読みたくなりました。(恥ずかしながら、私はかの有名な『博士の愛した数式』も、最近話題となった『密やかな結晶』も読んだことがないのです。)

 

一つだけ気になった点をあげるとすれば、ちょっと小川さんが謙虚すぎるところです。

そこが小川さんの良さであり、「売れっ子作家も一人の人間なんだ」という親近感につながる部分もありますが、1篇や2篇とかならまだしも、全体を通してずっと謙遜している感じがして、少し気になってしまいました。

 

しかし、これも私が気にしすぎなだけかもしれません。

総評としてはいろんな人にオススメできるエッセイ集であり、特に物書きや小説家を目指している人にとっては示唆的な一冊になり得る本と言えるでしょう。