ママ、負けないで。

朋緒は心の中で呟いた。

そんなオバサンに負けないで。

 

朋緒は勇気を振り絞って言った。

「ママ、行ってきます」

と。

「どこに行くんだい?」

オバサンに声を掛けられた。

「友達のおうちです」

オバサンは朋緒の目をじっと見つめた。

「ランドセルしょっていくのかい」

「そうです。宿題入ってるから」

胸がドキドキする。

足が震える。

オバサンはランドセルをじっと見ている。

 

負けるもんか。

オジサンは私が守るんだ。

 

「悪い子だね。

小人が来たら私に教えるように言っただろ?」

オバサンはグイっと朋緒に近づき、手を伸ばす。

 

と。

黒いものが目の前を横切った。

「いたたっ!」

オバサンは頭を押さえてる。

あ、あのカラスだ!

一旦高く舞い上がり、またオバサンの頭をめがけて急降下した。

「何だいこいつ、しっ、しっ!」

朋緒はその隙に走り出した。