「ママ、行ってきます」
朋緒は布団の中にいるママに声をかける。
昨日、涼太くんを見送った後からママは頭痛がすると言って早く寝てしまった。
昨夜はレトルトのカレー、今朝は食パンにイチゴジャムを塗って食べた。
返事はない。
でも、それにも慣れた。
ランドセルから鍵を出し扉の鍵をかけようとすると、
「朋緒。行ってらっしゃい」
え?
振り返るとママは玄関に立っていた。
顔色はよくないけど柔らかい表情をしている。
「ママ、行ってきます!」
朋緒は大きな声で言った。
今朝はカラスを見ていない。
もしかしたら涼太が追い払ってくれたのかもしれない。
嬉しくてついつい歌を口ずさんでしまう。
「夢でもし逢えたら 素敵なことね
あなたに逢えるまで 眠り続けたい」
「朋緒ちゃんおはよう」
「あ、おはよう」
いつの間にか涼太がそばにいた。
「その歌、なんていう曲?」
「え、あ、なんだろ」
「なんだ。知らないのに歌ってたんだ」
「えと、なんか、聞いたことあって」
そうだ。
朋緒はこの曲をよく聴いていた。
いつだろう?
誰が歌ってたんだろう?