「朋緒ちゃん?」
固まった朋緒に気づいた涼太はさっと自分の財布を出した。
「NIKE」と書いてある青いそれから50円玉を出し、
「これで足りる?」
朋緒はうなづいた。
お金は機械に入れる仕組みになっていて、朋緒は120円と涼太から受け取った50円をそこに入れ、お釣りを全部涼太に渡した。
「ありがとう。今度絶対に返すからね」
「いいよ別に」
「ダメだよ。借りたものは返しなさいって、ママが」
「じゃあさ」
涼太は言った。
「今度何かお菓子くれる?一個だけ。アメでもチョコでもなんでも」
「そんなのでいいの」
「うん。そんなのがいい」
「わかった。涼太くんありがとう。
オジサンきっと喜ぶよ」
「オジサン?」
「うん。かっぱえびせん大好きなの。小さくて丸っこくて可愛いの」
「おじさんが?朋緒ちゃんの?」
「あ、うんそう。私の」
「大人だけど背の低い、小さい人なんだね」
「え、あ、そうだよ」
「それで可愛いの?」
「う、うん」
「朋緒ちゃんは自分のためじゃなくて、おじさんのためにかっぱえびせんを買ったんだ」
なんかヤバイ。涼太にじっと見つめられてる。
「え、もちろん私が食べるんだよかっぱえびせん。
でもちょっとね、分けてあげるの」
「ふうん。朋緒ちゃんのママはおじさんにお菓子買ってあげないんだ」
「ええとね。病気だから。食べちゃダメなの」
「え?」
「オジサン。ほんとはお菓子とかダメだから。
だから私にこっそり『かっぱえびせんがええな』って言って」
そうだ、朋緒のおばあちゃんがそんな病気だった。
お菓子を我慢しなくちゃいけない病気。
「…血圧高いのかな?おじさん太ってる人?」
「うん。コロコロしてるよ」
そこが可愛いのだ。
「そうか。ショクジセイゲンしてるんだねおじさんは」
「うんそんな感じ」
「じゃあかっぱえびせんもよくないね」
「大丈夫。1本しか食べないと思うから」
塾は同じだがクラスは違う。涼太は特進クラスに入っていった。
朋緒は1年生から3年生が集まる基礎クラスに入る。
直子先生が入ってきた。
「はいみんな。今日も楽しくやっていこうね」
木の教材を使って数の勉強をする。
涼太に幾ら借りたんだっけ。
50円出してもらい、お釣りは結局いくらだったっけ。