リカたちは前の席に進む。

右側を見ると、英会話教室の生徒の婦人たちが数人座っている。

そう、リカが彼女たちに連絡したのだ。

もちろん彼女たちはこの知らせに驚いたが、ここにこうして集まってきてくれた。

左側にはジンナイさんの長女の結さんが、咲ちゃんやジェニファーと共に座っている。

「リカさん!」

「こんにちは。ベビーちゃんは預かってもらったん?」

「はい。あの子は病院にいます。私も式が終わったら直ぐに戻ろう思います」

「うんうん。咲ちゃんも無理したらあかんよ」

「リカさん。母のこと本当に、ありがとうございます」

結さんは立ち上がりリカを真っ直ぐに見つめた。その目からは涙がこぼれそうになっている。

「いえいえ、私はなにも、本当に」

結さんは40歳くらいだろうか。咲ちゃんより落ち着いて聡明な雰囲気だ。

ヒューストンで牧師に嫁いだと聞いていた。悩み事を受け入れてくれそうな穏やかさと芯の強さも感じられる。

「しばらくの間はこっちに滞在しようと思っています」

そう言って彼女は席に座った。

 

リカが席に着いたその時、開け放った窓から爽やかな風が吹き込んできた。

ああ、いいな。

礼拝堂全体が温かい空気に包まれている。

ふとリカは思い出した。

サッチンといつかの夕方に見たヤコブの梯子、雲の間から差し込んできたあの美しい陽の光を。

そうか。今わかった。

あれはやはり、天使たちが雲の上から降りてきてサッチンを祝福していたんだ。

リカは突然、大きな感情のうねりに飲み込まれそうになった。

耐えろ私。

頑張れ私。

この役割をなんとしてでも果たすために。

 

背が高く若々しい、ローブをまとった男性が前に表れ、マイクの前に立った。

「それでは今から、和田幸夫さんの葬儀を執り行います。

参列者はご起立ください」

 

オルガンの伴奏が始まった。