「お母さん、昨日何時まで起きてたん?」

「1時過ぎくらい?

だって…私スピーチなんて初めてやから緊張して、何度も原稿書き直してん」

「会場の教会、なんて名前やったっけ」

「昨日も言うたやんお兄。聖心グレースチャペルやって」

制服姿のミクとスーツ姿のタイセイがスマホアプリで場所の確認をしている。

「そやけどまさか、こんな日が来るとはなあ」

タカシは感慨深げに言う。

「ほんまやね。サッチンには私らみんなお世話になったからなあ」

「いや、私はどっちかいうたらお世話したほうやで」

「ミク。お前ほんまええ性格やな」

「そうやろ?

でも、ま、私が英語勉強したんはお母さんとサッチンのおかげって言えなくもない」

ミクは来月から三ヶ月、カナダのバンクーバーに留学することになる。

「咲ちゃんも来るん?赤ちゃん産んだばっかやのに」

「こんな機会は二度とないからね」

「みんな準備できたか?行くで」

「タイセイ運転よろしく」

「おけ」

 

思ったよりその教会は敷地が広く、リカの家の車を停めるスペースもあった。

受付には笠井ユカリさんが立っている。

「リカさん」

「ユカリさん!」

二人は自然とハグし合った。

「ありがとう。リカさんのおかげで、父はほんまに…」

「いやいやいや。ユカリさんのおかげです。

ほんまサッチンどんだけ幸せか」

ユカリさんはタカシ、タイセイ、ミクを見て、

「皆様には感謝しかありません。今日は本当にありがとうございました。

どうぞ中にお入りください。早見さんご家族は前の方に席をとってあります」

リカたちは礼拝堂の中に入った。