「お母さん、カサイさんって人から電話あった、女の人」

「サカイさん?」

「カサイさん。下の名前は…忘れた」

リカには思い当たらない。

「またかかってくるかも、夕方帰るって伝えたから」

ミクの言った通り、夕ご飯を食べてまったりしている時にその電話はかかってきた。

「早見リカさんでしょうか。和田幸夫の娘の笠井ゆかりと言います」

「サッチンの娘さん!

あ、失礼しました。和田先生の娘さんですね」

電話の向こうで笑った声がした。

「父がサッチンって呼べと言ってるんですね」

「はあ、まあ」

「早見さん。一度お会いしてもらえないでしょうか?」

 

初めて入る珈琲店だ。

職場の最寄り駅を伝えたら、近くにある洒落た店を指定された。

アップルコーヒーがお奨めらしいのでそれを頼み、一口飲む。

りんごかどうかはリカにはわからないが、確かにフルーティーな酸味を感じる。

「早見さん…ですよね?」

「はい。笠井さん?」

見ると、白いコートを着たすらっとしたロングヘアの女性が立っていた。

この人がサッチンの娘さんか。

「早見さんありがとうございます。お忙しいのにお呼びしてすみません。

ちょっと、あの、家族の前では話せないことですので」

えっ、なんだろうか。

 

「父の結婚のことなんですが」

 

リカはコーヒーを吹き出しそうになった。