今日は英会話教室の日ではないが、リカはいつもの喫茶店でサッチンと待ち合わせをした。

コーヒーの味がしない。

タイセイの休学云々よりも、こんな大事なことを親の私よりもサッチンに相談していたことに、リカは少なからずショックを受けていたのかもしれない。

「いや、そらそうですわ。

親に心配かけたないって思うんは当然です」

サッチンは落ち着いている。

「リカさん転職して忙しかったことですし。ほんで、もう慣れましたか仕事のほうは」

「まあ、ぼちぼちと」

サッチンと話してると、このことが大した問題ではないような気がしてくるから不思議だ。

「ええことやないですか、彼は周りに流されず自分の頭で考えようとしてるんです」

「そやけどサッチンにまず話すってことは、私らに話したら反対される思うからでしょう」

すると、サッチンはにっと笑った。

「そんな役割なんです」

「役割?」

「僕に話すと、自分の気持ちが整理されていくんでしょうな。

自分に余計なアドバイスせえへんからでっしゃろ、それはあかんとか、こうするべきやとか」

「...」

「僕は赤の他人やし無責任なじじいです、彼の人生に口出しなんてできる立場やおまへん。

そやからただ、タイセイ君の言うことを聞いてました。

そないしてたら自然と、彼の中で方向が定まってくるんですわ」

リカはジェニファーが以前、サッチンに深刻そうな話をしていたことを思い出した。

あの時もサッチンは聞き役だった、ほとんど口を挟まず彼女の言うことに相槌を打っていた。

「タイセイ君、始めは辞めたい言うてましたけど、自分から休学すると考えなおしましたよ。

『文武は車の両輪』言いますが、まさにその通りですわ」