「遠くないよ。お母さんはミクと一緒の場所におる」

リカはそう言いながら娘の肩を抱いた。

この子、私より大きくなったな。

いつの間にか背丈は抜かれてしまった。リカよりも華奢だが、手も指も長くて大きい。

「ミク、また一緒に英検受けよう?そしたらお母さんすぐに抜かされるやろな」

するとミクはリカの目をじっと見つめて言った。

「お母さんは積み上げてるよ。私はお母さんがどれだけやってたか知ってる。

私な、お母さんやイッちゃんみたいに、

一生懸命やったのに届かなかったって悔し涙流したい」

リカの脳内にある顔が浮かんだ。

はるか昔、高校生だった頃のバドミントン部の同級生、試合に負けて涙を流したあの子の顔だ。

そうか。今わかった。

あの子が羨ましかった。あの子に憧れていたんだ私は。

 

「ほうでっか。ミクちゃん覚醒しましたな」

サッチンは感心してうなづく。

「サッチン、覚醒だなんてお若い言葉使われますね」

ジンナイさんもこの頃はサッチンと呼ぶようになった。

英会話教室後のいつもの喫茶店、リカはこの頃二人の距離が近くなったと感じている。

ジェニファー、咲ちゃんとの出会いのおかげだろう。

「そう、あの子一月の英検受けるんですって。

次回は学校からじゃなく個人で申し込むんですけどね」

「ほな僕が教えに行きましょうか?」

「サッチン、ミクは塾に行くことになったんです、といっても英語だけなんですけどね。

友達がそこの英検対策で実力つけたから自分も行きたいって」

「ほうでっか。そら良かった」

「それに先生が横浜流星似のイケメンなんですって」

「僕も昔はイケメンです、ほら」

サッチンはスマホをスクロールし、リカたちに画像を見せた。

「…誰?」

黒髪を横分けした端正な顔の青年だ。

「佐田啓二、言われたこともあります」

「さだまさし?」

ジンナイさんが噴き出した。