「それ、辞めてくれ言うことか」

タカシはキムチに伸ばした手を止め聞き返した。

「まあそういう事やろね」

リカは昼間ウメザワ部長に呼び出された時の話をした。

今後事務員を減らしていくこと。

パート事務員は正午までのシフトでしか雇わないこと。

土日祝が休みの会社だ。午前中3時間で週5日なんて収入が激減してしまう。

これでは子供たちの学費、これから行くであろうミクの大学進学に備えることなんてとても出来ない。

タカシの言う通り、それが嫌なら辞めろということだ。

しかしリカは気づいていた。

事務員を減らすと言っていたが、今年事務員の新卒採用が二名あった。

パート事務員はリカの他に大ベテランの今年60歳になる女性がいる、この会社に入った時は彼女から丁寧に細かく仕事を教わった。

化粧気はなく地味で余計なお喋りをしない人だ、彼女はこれからどうするんだろう。

あんな会社に尽くしてくれた人にこんな扱いをするなんて。

ウメザワ部長の新人事務員と話している時の嬉しそうな顔を思い出すと、リカの中から勉強に集中するエネルギーがなくなってしまった。

 

私、これからどないしよ。

 

 

「ええっ!リカちゃんが?そんなことある?」

ジンナイさんは絶句した。

結局会えたのは金曜、今週は用事で休みを取っていたそうだ。

「そんなことがあったんですよ」

休憩室は人がいるので、掃除用具庫でひそやかに話をする。

「私の他にはキドさんも声を掛けられたそうです、彼女わかります?

事務の女性、大先輩の」

「ここもお終いやね。終わりの始まり」

ジンナイさんはため息をついて言った。

「えっ?」

「リカちゃん。

私ね、この年になるまで色んな会社を見てきたからわかるねん、

落ちていく会社の匂いっていうの。

人を大切にしない組織は滅んでいくしかないわ」

珍しくジンナイさんは強い口調で言い切った。