「おお!リカさんおおきに。
ようきてくれはりましたな、さあさあこっちへ、
Come on over here!」
その教室に入ったリカを、ワダさんは教壇から手招きして呼んだ。
新しい生徒として紹介されるのかと思い、ただ様子見に来たリカは躊躇しながらも壇上に立つと、
「Hello everyone.
She is my assistant Rika.
Let's study well today!」
「えっ?」
今アシスタントとして紹介されなかったか?
「Mrs.Rika, take this board.」
なんだかわからないまま英文の書かれてあるボードを持たされてしまった。
ワダさんがそれを音読し、生徒さんたちが続けて読む。
壇上から見る彼らは明らかにリカよりも年齢が上の、しかもほとんどが女性だった。
「いやあ~、リカさんのおかげで今日はやりやすかったわ、ほんまおおきに!」
打ち合わせもなしに何やらせんねん、このハゲ!
とは流石に言えない。
同じビルの一階の喫茶店で、リカはワダと向かい合った。
「いつもあの女の人たち、授業終わってからおしゃべりしてきはるねん、それがまあ長くて。
リカさんと話あるから言うたらあっさり帰ってくれてよかったわ」
「モテる男はつらいですからねえ」
リカはあきれながらコーヒーを一口飲んだ。
このオッサンに利用されただけやったんかい、私は。
「さてと。本題に入りましょか。
リカさんはこの前英語を勉強して、高いところ目指したい言うてはったでしょ」
「それは英会話教室への入会のお誘いですか?」
リカが聞くとワダさんは鼻で笑った。
「あんなん100年やっても身につきません、お金と時間の無駄です」
「えっ⁈」
ワダさん、自分のやっていることを否定しているのでは?