ワダとリカの、香典受け取れ受け取らないのせめぎ合いを止めたのはタイセイだった。
「ほんならワダさん、そのお金で今度オカンにお祝いしたってください」
「お祝い?
なんかええことあったんですか?」
「タイセイ、何いうてんの」
リカには祝ってもらう理由がわからない。
「オカン今勉強中なんです。
今度試験受けるんですけどそれに合格したらなんかお祝いしたってください。
寿司でも、焼肉でも。
僕もご馳走になりますから」
「ほうほう、そりゃあええ、そないしましょうか。
リカさん、それは資格試験かなんかでっか?」
「ええと…」
「英検の二級なんです」
タイセイが答えた。
「ほう!」
「あ、いえ。
英語の勉強してるんですけど、正直この頃全然集中できなくて。
6月に二級受けようと思うんですけどレベルが高くなっていることもあるし、父のこともあったので。言い訳なんですけどね」
「リカさん。
あなたは英語を本気で学ぼう、そない思うてはりますか?」
ワダさんはリカをじっと見る、その目の色が変わった。
「え、はい。
英語を学びたいという気持ちに噓はありません。
でも自分にはハードルが高くて弱気になる時があって」
「英検は何のために受けてはるんでっか」
「えと…ミクが受けたのがきっかけでした、それで私も受験しようと思いました。
英検の勉強が英語力をアップするんじゃないかなって」
「ミクちゃんとの競争ですな」
「直接のきっかけは職場の人が、あもうその人は転職してオンライン英会話スクールの講師をされているんですけど。
彼女に憧れたんです。
その人は休憩中も英語の勉強をしていました。
私は今まで努力ってものをしたことがなくて、必死に学んで英語を仕事にした彼女に…」
自分が何を言おうとしているのかわからない。
だが、ワダさんの言葉がリカの本心の開示を促したのだろう。
「激しく嫉妬しました。
学んで人生を変えた根岸さんに」
そうだ。
今理解した、この気持ちが何なのか。