「すごいわきいちゃん、スカウトされたやん」
私よりミドリが興奮している。
「あるんやな、マンガ家の卵をこういうところで見つけるって」
コミケの打ち上げで居酒屋に来ている私たち、焼き鳥にかじりつきながら部長は言った。
コスプレ衣装は脱いだもののメイクはそのまま、なんだか怪しい集団だ。
私がナガセという男から渡された名刺をつまみにみんなで盛り上がっているのだ。
「そやけどその、『三水社』ってどこの出版社?
聞いたことない名前やん」
タケは自分の手掛けたBL本には言及されなかったせいか、なんだか絡んでくる。
「私知ってる、BL専門の漫画雑誌も出してるとこやで」
見た目がふっくらしてるだけで白髪メガネの監督コスプレをさせられたルウちゃんが助けてくれた。
「きいちゃんまだ就職先決まってへんのやろ?
これチャンスかも。
このナガセさんに連絡してみたら?デビューできるかもよ」
「それいい。
私きいちゃんやったら絶対デビューできる思う、ぜえったい!」
ミドリ酔っぱらってる?
「酔っぱらってなあい!
だってきいちゃんは昔から絵が上手やったし、漫画も面白いし」
「へえ。
どんな漫画書いてたんきいちゃん」
いや部長、そんな人に見せれるもんじゃなくて。
「そう、あれは私だけに書いてくれたものやから。
門外不出の名作、傑作!」
ミドリ呂律回ってないで。
「俺はいややなそんなマイナー分野。
漫画書くなら王道、
『少年ステップ』に投稿して大賞取って連載ゲットしたるわ!」
タケは声が大きくなってきた。
「よっしゃあ!ほな、前祝いや。
きいちゃん、タケの漫画家デビューを祝って、
かんぱあい!」
部長も顔が赤い。
「すみませえん、ビール追加お願いしまーす!」
ミドリの声が響いた。
しかしまあ。
現実はそんな上手くいかなかった、当然か。