あれは四回生の時だったか、
私たちはサークル内の同志でコミケに参加した。
分担してイラスト、ストーリー、製本、グッズを作った。
誰もが知る大人気バスケマンガをネタに、チーム内で恋愛感情が飛び交うというとんでもないBL二次創作。
美大生ならではの画力と、細部までこだわり作りこんだコスプレにより、私たちのブースは大人気で行列ができた。
もうミドリとは付き合ってないタケが(その時すでに10歳年上の女性の部屋に転がり込んでいた、やっぱりヒモや!)赤毛の主人公のコスプレをした。
ハーフならではの外見がさまになっている。
実は大人しい性格なのに大柄で見た目が怖いサークルの部長はキャプテンのコスプレ。
そして私は、クールなイケメンでバスケの天才のコスプレ。
自慢でもなんでもなく、私に一番女の子が群がっていただろう。
「きいちゃん、ほんまカッコイイわ」
ミドリは今回も手伝ってくれた。
もう地元の製菓会社に就職が決まっていて、表情にも余裕がある。
私はかなりのばっちりメイクなのだが、それもミドリが手伝ってくれた。
「すみません…一緒に写真撮ってもらえますか?」
「はい、写真はグッズ買ってくださった方だけですよ、
ありがとうございます、こちらにお並びくださーい!」
さすがのミドリ、段取りよくお客さんを捌いてくれる。
「ちょ、何なん?
主役の俺よりきいちゃんのほうがファン多いって」
「タケちゃん拗ねないの。
あ、タオルですね、ありがとうございまーす!」
そう言いながらも女の子に握手を求められ、タケは本当に嬉しそうにしている。
あらかた本やグッズを売り捌いた私たち、片づけをしている時に一人の男性に声をかけられた。
私より目線が低いが、その目には力があった。
「君カッコイイね。
ところでこの本なんだけど、君が描いた人?」
私の二次創作本を手にしている。
言葉のアクセントが平坦だ、関東の人間かな。
ああ、はいそうです。
「君たちは美大生なんだよね、どうりでデッサンが上手いと思った。
でもね、
僕の見るところはそことは違うんだよな。
君は今まで雑誌に投稿とかしたことある?自分の漫画」
いえ、ないです。
「君さあ、本格的に漫画書いてみる気ない?」