「わあ、なにこれ!
これ女子の部屋ちゃうやん」
え、誰?
「きい何時や思うてんの?
もうお昼近いよ、ええ加減起きなさいて」
へーねみい、起きたくない。
あ、勝手に掃除せんといて、ちょ、眩しい!
スミレはカーテンを全開にし窓を開けて言った。
「換気換気、埃っぽいわここ。
ばあばに言われてん、
きいは絶対だらしなくしてるから掃除しに行きって。
ほんまにその通りやなあ」
捨てんといて!
ゴミちゃうからねそれ、展示するねん学祭で。
「え、そうなん?カオスやなあ」
そう言いながらも目の前に水を置いてくれる。
口調はきついが面倒見のいい姉だ。
「冷蔵庫には…。おお玉子あるやん、野菜は、と」
ぱぱっとオムレツを作ってくれた。
んん!美味しい。
やっぱ人に作ってもらう朝ご飯ってサイコー!
「あほ。もう昼ご飯やわ」
スミレは第二志望の会社に内定貰ったそうな。
食器まで洗ってくれて帰った。
就活かあ。
私は何になりたいんやろな。
唐突に、
昔誰かと一緒になかよしを読んでいたことを思い出した。
「今日来るねん、俺の彼女。
むっちゃ可愛いねんで、女子大行ってて色白で」
ヘイヘイヘイ、喋ってんと手動かしや。
そうやなくても私ら準備遅れてるのに。
「きいちゃん、もうスルーせんといてえや」
タケの彼女に興味なんてないわ。
こいつ、同じサークル内の女子に声かけまくっとるクズやん。
その彼女、こいつの本性知らんのやろな。
まあ私は幸いなことに女と見なされてないから被害には遭うてないけど。
ハーフであること、
母親がシングルマザーで自分を苦労して育ててくれたこと、
中学生のときにアイドル事務所からスカウトされたことをネタにして女の気を引こうとする。
タケは将来典型的なヒモになるだろう。
あーあ。
午前中こいつと一緒に屋台の番をしなければならない。
タケ、はよフランクフルト焼いてや。
「忙しそうやね、タケちゃん手伝おうか?」
「ミドリちゃん!
ありがとう、早いねえ。
え、何手伝ってくれるん?」
「タケちゃんホットドック屋さんなんやね。
すごい、やっぱり美大の学祭は規模が大きい」
「いや午前中だけ、後で一緒に回ろう」
彼女が来てくれたようだ、手が止まってしまってる。
「きいちゃん、俺の彼女ミドリちゃん、可愛いやろ?」
「え?きいちゃん?」
あれ。この人どこかで。
デジャブ。
そうだ。痴漢にあってたお姉さん。
「きいちゃん!」
ん?
「ミドリちゃん、きいちゃん知ってるん?」