半年前、思いがけないところでナオ君とバッタリ会った。

塾の特別授業でいつもの教室じゃなく梅田まで行ったのだ。

TVやYouTubeでお馴染みの有名な先生の授業を無償で受けられるってことだった。

一緒に行った子たちはテンション高め、でも私はその先生をよく知らないのでそうでもなかった。ただ帰りに梅田にあるおしゃれな雑貨のお店を覗こうと思っていた。

お母さんは私よりも乗り気で喜んでいた。

「成績優秀者しか受けられないプレミアム授業なんでしょ?

いいじゃない、ぜひ行ってきなさい!」

 

いつもより広い教室、M塾の他校の生徒たちも次々に入ってきた。

中にはあからさまに私をじろじろ見てくる男子も。

なんやねんお前、しばくぞゴラ。

なんてヤンキーなセリフ言えるわけもなく。

そんなこと思ううちに、その有名講師が教室に入ってきた。

その後にアシスタントかな、高校生くらいの男の子二人が資料を持って入ってきた。

て、ええ?

ナオ君じゃね?

もう一人の眼鏡の男の子と一緒に、手に持った資料を私たち一人一人に配り始めた。

「ナオ君」

ちょうど近づいてきた時小声でそう呼ぶと、

「わ、やっぱり瞳ちゃん」

向こうも小声でそう返してきた。

「名簿に『根岸瞳』てあったからそうかと思ってた」

ボソッとそう言って通り過ぎた。

ナオ君ちょっと背が伸びた?

そりゃそうか、最後に会ったのまだ小学校の時だったもんな。

資料を配り終わると二人は前に戻り、眼鏡男子はマイクの調節をして講師に渡した。

講師が自己紹介をしている間にナオ君はパソコンを接続して、手際よくホワイトボードに資料を映し出した。

この授業の内容はよく思い出せない。

ただ、これが終わったらナオ君をなんとか呼び止めよう、

なんて話しかけようか、

ずっとそれだけを考えていた。