「なあ。それ私の作品やんな?」

さすがきいちゃん、

乱雑に積まれた中から見つけたか。

「うん。

私もさあこんなん書かれへんかな、思うて」

「こんなんって、BL?」

「まあ、そうかな」

「だってあんた、ち○こ見たことないんやろ?」

「きゃあ!

そ、そんなん、か、描けるわけないやん!」

「やろうなあ、ああびっくりした」

「それはこっちのセリフやわ。

ちゃうよ、きいちゃんの、ほら

『蒼のきみへ』ってあるやん、ほらこれ」

「わあ!懐かしいなあ」

それはきいちゃんのデビュー作、

高校生の男子同士の友情物語。

主人公修司は幼なじみの陸への思いを友情ではないと気づいている。

陸には好きな女の子がいて、修司は自分の気持ちを隠しこの恋をなんとか実らせようと画策する…。

結局修司は最後まで自分の気持ちを陸に伝えないまま終わる、本当にいい奴なのだ。

「これむっちゃ好き」

「へえ、どういうとこが?」

ああ、この聞き方。

決して答えを急がさず、相手から出てくる想いが形になるのを待ってくれる。

私の心を整えてくれたのはきいちゃんの、このやり方だ。

「修司は自分の気持ちより陸の気持ちを大切にするやん。

自分の片思いの辛さなんかより、陸が笑っている方がいいって。

そこがいい。なんか武士道みたい」

「武士道?」

「うん、侍みたい」

「へえ。そんな感想初めて聞いた、

りり子はやっぱり面白い子やなあ」

「へへっ」

「でも編集者からは、もっとエロを入れるようにしろって言われてん」

「うわあ」

「だからオナ○ーシーン足したり」

「ひゃあ!」

「て、中学生と話す内容ちゃうな、あははっ」

またきいちゃんの葉が揺れた。

「なあ、きいちゃん描き方教えて」

「え?」

「『腐男子パラダイス』私が続き描いたる」

「ええ?」

「きいちゃん、私にのりうつって!」