天童荒太さんの『ペインレス』 | フリーライター 熊谷あづさの雑記帳

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観たもの・聴いたもの・読んだものなどを綴っています。
ねこの記事もちょくちょく登場する予定です。

今年も、仕事でもそうでないときも、たくさんの本を読みました。

経済的な事情とか住環境といった要因のせいか
小さいころの唯一の娯楽は本を読むことでした。

大人になって、少しは楽しみの幅も広がりましたが
読書は今でも大好きです。

実用書やノンフィクション、伝記や自伝やマンガなど
なんでも読むのですが、一番好きなのは小説です。

そして、今年読んだ本のなかで
一番、衝撃を受けたのが
天童荒太さんの『ペインレス』(新潮社)です。
 


実は私、刊行時に天童さんへのインタビューをさせていただき
記事を書いております。

その原稿では、小説の内容を次のように紹介しています。

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主人公は、ペインクリニックに勤務する美人女医・野宮万浬。生まれつき心に痛みを持たない彼女は、身体の痛みを失った青年・貴井森悟と出会う。セックスを伴う診察の先に彼女はなにを企んでいるのか――。天童荒太さんの最新作『ペインレス』は、人間の常識やモラルを大きく揺さぶる構想20年の本格長編小説だ。

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さらに詳しい内容などは、こちらの『ペインレス』の特設サイトでどうぞ。

ちなみにこちらでは、

文芸評論家の紫野京作さんによる書評が読めます。

わたしが初めて天童荒太さんの作品を読んだのは
『永遠の仔』です。

読み進めるうちに、登場人物たちの感情が濃く流れ込んできて
心がヒリヒリするような感覚になったことを覚えています。

『悼む人』や『ムーンナイト・ダイバー』は
読んでいるうちに気づいたら泣いていました。

『どーしたどーした』という絵本も好きで、
今、1歳の甥っ子がもう少し大きくなったら
この絵本をプレゼントしたいなぁと思っています。

それから、心が疲れたときには、
短編集の『あふれた愛』を読み返します。
温かいやさしさに触れたような気がして、
心がとても落ち着くからです。

『ペインレス』は上下巻からなる長編なのですが
一気に読みました。

その夜、夢に主人公の万浬先生が登場しました。

俳優さんなど、実在の人物が夢に出ることはあるのですが
小説の登場人物が現われたのは、初めてのような気がします。

翌朝、目が覚めて、
自分で思っている以上に、『ペインレス』の物語から
強い衝撃を受けたのだと実感しました。

心に刺さる場面はたくさんあるのですが
一番、印象に残っているのは
身体の痛みを失った青年・貴井森悟の

仕事の延長線上のエピソードです。

とある人たちのことを思ってとった言動が
結果的にはその人たちにとってマイナスの結果をもたらし、
「あなたには、人の痛みというものがわからないんですか……」と
なじられる場面を読んだときには、思わず体が震えました。

ニュースなどを通して、日本はもちろん、世界中で
心身ともにつらい思いをしている人が

たくさんいるのを知っているというのに
しょせんは他人事だと流してしまう自分がいます。

「あなたには、人の痛みというものがわからないんですか……」と
いう言葉は、自分に向けられているような気がしました。

天童さんの作品には、
すっかり忘れていた些細な出来事を思い出したり
今まで知らなかった自分の感情や思考に気づいたりなど
わたしの中にある未知の部分を
えぐり出すような力があるように感じています。

『ペインレス』では、

特にその力がパワーアップしているように思います。

2018年の4月と5月に、神楽坂のla kaguにて
『ペインレス』の刊行イベントが行われました。

天童さんのお話をナマで聞ける機会はなかなかないと思い
イベントに申し込んだその矢先に
取材のお仕事をいただき、ものすごく驚きました。

インタビューをさせていただけるのは
とても光栄なことなので、すごくうれしかったです。

一方で、わたしの薄っぺらい人間性や無知すぎる側面を
瞬時に見抜かれてしまうような気がして、
今まで一番、緊張しました。

緊張のあまり、取材前の一週間のあいだに
記事の編集担当のGさんに
「今から緊張しています」という主旨のメールを
2~3回も送ってしまったほどです……

初めてお会いした天童さんは
背がスラリと高く、スーツがお似合いで
すごくカッコよかったです。

とてもおやさしい方で
ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくださいました。

取材後、編集担当のGさんが
わたしが極度の緊張状態だったことを伝えたときには
笑顔で「僕、全然、怖くなかったでしょ」と
おっしゃってくださり、
ありがたすぎて、涙が出そうでした。

4月のイベントでは『ペインレス』の単行本に

サインをしていただく時間があり
わたしも張り切って、列に並びました。

そのときに
「先日は取材をさせていただき、ありがとうございました」と
お礼を申し上げるつもりだったのですが
いざ、天童さんを前にしたら、
やっぱり緊張してしまい、何も言えませんでした……

でも、直筆サインはしっかりと頂戴しました。
宝物です♪



5月のイベントは、

天童さんが参加者の質問に答えてくださる形式でした。

事前に質問を募集していたのですが
どうやら、小説の執筆や創作に関するものが多かったようで
「Q&A的 小説作法講義」というタイトルのもとで
お話が展開されました。

天童さんの小説の登場人物は
「もしかして、モデルがいるのかな?」と

思ってしまうほどリアルなのですが
血肉が通った人物像を創り上げるために
並々ならぬ苦労と努力を重ねていることがわかりました。

舞台となる場所の見取り図や間取り図を作ったり
登場人物が属する組織の構成から

考えたりしていることにも驚きました。

その後に出演された『ゴロウ・デラックス』で
実際の創作ノートを公開されていたのですが
想像以上に詳細な見取り図などが描かれていました。

イベントや取材を通して
天童さんの創作の過程をほんの一瞬でも垣間見られたことは
わたしにとって、大きな財産となりました。

ちなみに、5月のイベント時には
わたしも質問を送らせていただきました。

どんな質問にしようかと悩んだのですが
締め切りの直前にお花を盗まれてしまったこともあり
「ショックなことや、心がひどく痛むことがあったときには
どのようにして乗り越えますか?」という質問にしました。

なのですが、当日、小説に関する質問が多かったことを知り
「わぁ、へんな質問をしてしまった……」と激しく後悔しました。

でも、イベントの最後に、天童さんはわたしの質問にも
ちゃんと答えてくださいました。

変えられるのは自分だけなので、考え方を変えます、
笑って長生きをしている方がらくですから、
といった趣旨の回答をいただきました。

このお言葉も、わたしの宝物です。

なんだか、ライターとは思えないような
まとまらない内容になってしまったのですが……

『ペインレス』のすごさをさらに多くの人に知ってもらえるといいなぁと
心の底から願っています。

私自身、また取材の機会をいただけるよう
少しずつでも精進していきたいと思っています。