【熊大第3迷宮:千と千尋と心強さと部隊】

「せええんとちひひろと心強さと〜♪」

「無理矢理やな」

 探索からの帰還途中、思わず漏れた神田 知江の歌声を聴いて、熱海 咲月が突っ込みを入れた。ここは熊大第3迷宮。本日千と千尋と心強さと部隊は地下8階のボスである気合い十分の部屋を訪れて4回ほど気合い十分戦を行った。相変わらず気合の入った戦闘を仕掛けているボスであったが、大ダメージを受けることもなく戦闘をまとめることが出来ている。現在は帰還中であり、ちょうど地下4階の通路を歩いているときに神田が歌を漏らしたのである。ちなみに歌った歌は篠原 涼子さんの名曲恋しさとせつなさと心強さとの歌詞を変えた物である。

「帰り道はいつもそうだけど緊張感がなくなるよな」

「迷宮出るまでが探索なんですけどね」

 前方での様子を見ながら罠解除士の池野 信がため息を漏らしながら言葉を発し、それに僧侶の濱本 美佐紀が失笑しながら返事を返した。迷宮内は1階から8階まで亜獣が存在しているので、8階のボス戦からの帰りとはいえ、亜獣に遭遇する可能性はかなり高い。なので、迷宮から出るまでは一瞬たりとも気を抜いてはいけないのであるが、階層によって亜獣の強さに大きく差があるのは確かであり、地下4階の亜獣程度であれば多少気を抜いててもやられることはないのである。

「信頼されてるんだよ」

 魔術師の小塚 洋之がこう声をかける。移動中は常に罠解除士の池野が亜獣探知を行っており、亜獣を近くに感じた際には瞬時に報告を行う。つまり小塚が何も言わない限り周りには亜獣は存在しないことになるので、気を抜いても良いと判断しているのであろう。

「俺もたまには集中力切れるさね」

 こう言葉を漏らして池野は大きくため息をつく。罠解除士は迷宮内にいる間は、常に亜獣探知を行っていないといけない。これは結構精神的に疲れる物であり、集中力が切れて亜獣探知がうまく行えず、亜獣の先制を喰らうということも事象としては十分に考えられる。ただ、池野はこの部隊で探索を開始してそのような状況になったことは1度もないので、その結果として戦士の緊張のなさにつながっているのかもしれない。そう考えた池野は今の状況に納得し、迷宮を出るまで亜獣探知に集中したのである。