20231115日(水)

AXIS:桑野 絵梨花・富田 正継】

「お疲れ様っすー。お茶あげます」

 息を切らしている桑野 絵梨花に向かって富田 正継がお茶を渡しながら声をかけた。ここはお昼過ぎのゲーム&喫茶『AXIS』。いつものように店内は閑散としており、店番をしている富田も何やら暇そうである。本日桑野は何か非常にイラついた感じで『AXIS』にやってきた。イラついた時の発散方法として桑野はダンスダンスレボリューションを行うことが多い。今も、DDRをプレイして、横にある椅子に座って息を整えている所である。ちなみにDDR自体は現在はあまり流行っておらず、あまり見かけることもなくなったが、店主の富田 剛が大好きなので、店の奥の方でひっそりと稼働をしているのである。ちなみにバージョンは3rd MIXである。

「ありがとう。少しスッキリした」

 お茶を手に取って、桑野はこのように話し、ペットボトルの蓋を開けて、お茶を喉に流し込んだ。確かに店に来た時よりは多少イラつきも治っているようだ。やはりストレス発散には体を動かすというのが1つの手段であるということだ。

「やっぱりDDRって良いわね」

 だいぶん息が整い始め、気持ちも落ち着いたらしく、桑野がこのように言葉を漏らす。

「初めてDDR見た時の衝撃は今も覚えてるわ。まだ私が小学生の時だったわ。入り口の横の1番目立つ場所に置いてあって、まだ富田くんは生まれてなかったと思う」

 昔を思い出しながら桑野が言葉を発する。これを聞いて富田は大いに驚く。自分が物心がついた幼稚園ぐらいの記憶で、桑野は高校生であり、このゲーセンでアルバイトをしていた。そして高校卒業後冒険者となり、冒険者となっても『AXIS』でのバイトは続けている。なので、桑野が『AXIS』に昔から居たのは知っていたが、来出したのは高校生ぐらいからだと思っていたのだ。それがまさか自分が生まれる前の小学生の頃から来ていたというのは初耳であり、驚愕の事実である。

「大常連だということはわかりました。それで今日は何かあったんですか?」

「知りたい?」

 だいぶん落ち着いた様子だったので、富田はつい何かあったのかを尋ねたが、桑野が少し悔い気味に返事を返したので、黙って顔を横に振り、ゆっくりとその場から離れることにした。それを見た桑野は思った通りの反応をされたので、思わず笑ってしまい再度DDRをプレイしようと立ち上がった。