ママの預金口座❶ Reading PowerOn1 | 赤城❤︎.*

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アカギ

ママの預金口座

 

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物語の舞台はアメリカのサンフランシスコ。決して裕福ではない家庭の母親が子どもたちを安心させるために取りつづけた行動とは・・・

 

 わたしはカトリン。子どもの頃、家族みんなでサンフランシスコの小さなお家に住んでいたんだ。家族の一員はママとパパとお兄ちゃんのネルス、そして妹たちのクリスティーンとダグマー、そんでわたし。わたしたちはノルウェーからの移民だったの。
 毎週土曜の夜に、ママが深刻な顔で台所のテーブルのそばによくすわってたのを覚えてるわ。パパがちっちゃい封筒に入れて持ち帰ったお金を一つずつ数えて分けていたっけ。テーブルの上にはいくつか積み重ねたコインがあったなあ。
 ママは「これらがお家賃ね。」と言って大きく積み重ねたコインを別に取っておいてたね。「雑貨屋さんに。」と、ママはもう一つの積み重ねたコインを別に取っておいて。「カトリンの靴に」とママはコインを数えて。「今週ノートが必要なんだ。」とネルスが言うと、ママは10セントコインを脇に置いて。そして最後にパパが「それで全部なのか?」とたずねたものだったな。ママはうなずいて「あら、そうよ。お金をおろしに銀行に行く必要ないじゃない。」と言っていたよね。
 ママの預金口座はすばらしかったな。わたしたちはみんなそれをとっても誇りに思っていたわ。わたしたちになんとも温かくて安心できる感じを与えてくれたよね。私たちが知っている他の人はだれも町の銀行になんかお金を預けていなかったのよ。お隣のジェンセンさんは家賃が払えなくてお引っ越ししなければならなかったことを覚えているわ。ジェンセンさんの奥さんは立ち去るときに泣いていたのよ。わたしは不安でたまらなかったわ。わたしはクリスティーンの手を握ったの。彼女が「わたしたちには預金口座があるよね。」と静かに言ったからなんだかほっとしたのよ。
【elder】年上の 【immigrant】移民 【count】数える 【envelope】封筒 【rent】家賃 【aside】わきへ 【grocer】食料雑貨店主 【nod】うなずく 【withdraw】引き出す 【proud】誇りに思う 【secure】安全な・安心な 【downtown】中心街 【neighbor】隣人 【concern】心配・懸念 【calmly】静かに 【relieved】ほっとした・安心した

 

 グラマースクール(中等学校)を卒業したとき、ネルスは高等学校へ行きたがってたの。「いいんじゃない。」とママは言ってパパはうなずいてたわ。ネルスが「ちょっとお金がかかるんだけど」って言ってね。私たちみんなはテーブルに集まったの。私はテーブルのママの前に箱を置いたんだ。私たちはそれを小さな銀行って呼んでたの。その小さい銀行は繁華街にある銀行とは違うのよ。お医者さんにかかったりお薬のために薬局へ行ったりするような緊急時に使われるの。
 ネルスはバス料金とか制服代とかノート代なんかをみんな書き記してね。ママは長いことそれを見てたわ。そしたら小さな銀行からお金を数えだしたの。全然足りなかった。ママは「銀行には行きたくないわね。」と言ったわ。ネルスは「ぼくが放課後ディロンの食料品店で働くよ。」と言ったの。パパは「それじゃあ足りんな。」って。そしてパイプを口から出してずっとそれを見つめてたんだ。突然パパが「禁煙するよ。」って言ったんだ。ママはパパの手にやさしくふれたけど黙ってたわ。ママがもう一つ表を書いたの。私は「毎週金曜の夜にエルビントンの子どもたちのお世話をするよ。クリスティーンが手伝ってくれる。」って言ったんだ。ママは「そうね。」って。
 みんなほっとしたの。繁華街の銀行に行かずにすむっていうもう一つの大事なことをクリアしたんだ。小さな銀行は今のところ十分だったの。

 

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