「今日も元気におはよう」
休日の朝、嫁が俺の体にダイブしてきた。
日曜だってのに。
肋骨が何本かイッたかな。
ははは。
「日曜だよ。日曜」
「うん、知ってる」
「外もこんなにいい天気」
嫁は一気にカーテンを引き、朝日を部屋の中に取り入れた。
と言うか、朝日だって。
今何時だ。
「今、何時」
「朝七時」
おいおい、昨日散々晩酌付き合わせておいて朝七時に起こすかよ。
しかも何だこの元気。
「朝から元気なのは良いが、何か飲み物をくれ」
「ふふふー。そう言うと思ってました。飲んで疲れた胃に『野菜ジュース』です」
「お前。俺が苦手なの知ってるだろ」
そう返したのにも関わらず、嫁は捨てられた子犬のような目で俺を見る。
ああ、そうだ。
俺はこの目に弱いんだ。
昔からだ。
大学時代にサークルの後輩として入ってきてから、こいつはいつもこの目で俺を黙らせる。
「分かったよ。飲むよ」
嫁は急にパァッと顔が明るくなり笑顔が溢れる。
そうそう。
あの目の後にこの笑顔が堪らないんだ。
俺も嬉しくなり、一口野菜ジュースを飲む。
「ぶほぉっ。なんだこれ。なんか辛、いやしょっぱい。ん、甘い」
俺の味覚は一瞬にして混乱のうちに至った。
「へへへー。私特製野菜ジュースです」
「お前、何入れた」
「えーっとね、ほうれん草でしょ、にんじんでしょ、チョコレートで─」
「ちょっと待て。全部生か」
「当たり前じゃん」
満面の笑みでそう答える嫁に俺は何も言えなくなった。
「隠し味は入れたのか」
「もちろん」
「何を」
「隠し味なんだから隠さないと意味無いでしょー」
「そうだけど、大体予想は付いてるんだ。生姜とかこしょうとか入れただろ」
「すごーい、よく分かったね」
独特の生姜風味が主張し、喉に引っかかるこしょうの辛味。
分からないわけがなかろう。
「うん、やっぱり俺がご飯係でよかった」
「えー、どういうことー」
嫁はぶーぶー文句をたれながら、起き上がる俺にしがみつく。
「さて、起きるか。朝飯何が良い」
「野菜ジュース」
「さっき飲んだだろ」
「えー、旦那の作った野菜ジュースが飲みたいー」
「しょうがないなぁ、分かったよ」
--ギュイイ
野菜ジュースを作るミキサーの音が部屋に響いた。