書店で「岳」が目に留まり、読み始めたのが2008年のこと。それから3年後、2011年に実写化、映画化されている。小栗旬の島崎三歩は若干違和感があったが、長澤まさみはかわいかった(笑)。しかしその翌年、劇的な幕切れで連載終了。いろいろな感情が残る、最終話だった。

 で、連載が終わってしばらく、作者の石塚氏次回作「Brue Giant」がスタート。今度はなんと音楽シーンが舞台。テーマは「Jazz」だ。私もJazz愛好家であり何とも親近感を持って新連載を大歓迎したわけだ。今度は物語が長い。無名のアマチュア演奏家からスタートし、仲間とともに知名度を上げ、しかし好事魔多し。不幸な事故による挫折、といった第一部。そして海外に飛び出したヨーロッパ編、そして今、本場アメリカに殴り込んでの第三部が継続中。

 全編に音楽シーンがあるのだが、さすがにコミック紙面、曲名は出てくるがその音、演奏は想像するしかない。かなりアグレッシブな激しい演奏をしているようだが、その音は「〇〇のような」といった類似ミュージシャンの音から想像するしかなかった。



 その音を再現したのが、昨年公開された劇場版アニメの中での演奏だ。劇中でピアニストの沢辺雪祈が作曲したとされる、オリジナル曲を再現、というよりも創作したのが日本が世界に誇るピアニスト 上原ひろみ。もちろん映画中での吹き替え演奏も担当。肝心のテナーサックスは馬場智章。そして驚愕なのが、ど素人だったドラムス担当の玉田俊二の演奏吹替が石若駿。なんとも豪華な日本のトップアーティストによるピアノトリオができたわけで、スゲー、と唸った。

 石若駿は東京芸術大学出身の鬼才。King Gnu の初期メンバーとしても知られているが、ジャズのみならずロックから、クラシックまであらゆる音楽ジャンルに適応する凄腕ドラマー。プロ演奏家で結成された吹奏楽団での演奏では、Tsquareの名曲「宝島」を演奏。吹奏楽のお手本とされ、ユーチューブ再生回数が7年間で270万回という化け物。
  

再掲!この演奏好きなんで!
 ジャズピアノは好きで、大定番のビル・エヴァンスやオスカー・ピーターソン、チック・コリアやキース・ジャレットなんかは車の中でいつもエンドレスに流れている。日本のピアニストでは小曽根真の大ファン。だが、激しいタッチが好みではなくて上原ひろみはあまり聴いていなかった。だが改めて聴いてみると、運転中の眠気覚ましにはなかなかいいじゃない。アルバム「Spark」を聴いていて「おや?」

 最後の曲「All's Well」がハンドクラップから始まるのだが、そのリズムを聴いて「これは・・・・」アメリカの作曲家 Steve Reich の「Handclap Music」と全く同じ。え、なんでこの曲が突然始まった?と思ったが、しばらくたつとクラップにバスドラムの連打が加わり、ピアノが入ってきた。ああ、違う曲だったか。「Handclap Music」は異なるリズムのクラップがずれながら重なって、最後までクラップのみで曲が構成される。それにしても最初のクラップの入りはほぼ同じ。偶然の一致か。それとも・・・上原ひろみならスティーブ・ライヒは知っていたのではないかとも思うが。

 スティーブ・ライヒは分類としてはクラシック作曲家になるのだろうか。ミニマルミュージックの第一人者、として紹介されたりするが、クラシックという言葉には少々引っ掛かるいわゆる現代作曲家。音楽番組の中で代表曲として演奏された「エレクトリック・カウンターポイント」は少しずつ異なるメロディーのギターの反復をいくつもずらしながら重ねて録音していくという曲。アルバム内ではパット・メセニーによって演奏されていた。いったいいくつのテイクを重ねたのかわからないほどだが、演奏者は一人。理論的なことはわからないが、楽譜があって、その通りに演奏する、という意味ではクラッシック音楽なのだろう。そのパット・メセニーの曲もくくりはジャズかフュージョンか、ボーダーレスな感じ。アルバム「シークレット・ストーリー」もドライブミュージックの定番に入っている。