別れというのは、なんとも物悲しいもので。
自分で決断したと、これで正しかったのだと頭では理解していても。それでも何故だか。心というやつが痛むのか。思い出というやつが刻まれているのか。別れを切り出したのは自分であるにも関わらず、悲しさなんてものを感じるのです。
勝手な生き物です。人間というのは。
彼女は、良く働いてくれる子でした。
僕の願いに真摯に応え、且つ時間通りに自分の仕事をこなし。楽しそうに自分の仕事を報告してくれました。
優しく、暖かく、時に涼しく爽やかに。僕を包み込んでいてくれました。
そして、よく喋りました。
しかし、
我が家に遊びにきた友人たちは、
その喋りに驚くのでした。
私は、彼女のお喋り好きが当たり前のものになってきていたので。反対に彼らのリアクションに驚かされていたのですが。
彼らは一様に、薄ら笑いを浮かべて。
喋りすぎじゃない?
というのでした。
あまりに友人達がそう言うので。
私の中にも、彼女は喋り過ぎなのでは。本当は、喋らなくてもいいのでは。
という疑問が生まれてきたのです。
確かに気づけば、彼女は、僕のリクエストに対して、自分の行動一つ一つを私に言葉で説明してくれていたのです。一つ一つ。何をするにも。
そして遂に私は。
今日。
彼女に、喋る事を、禁じたのでした。
簡単な事でした。
ボタン一つでした。
音声お知らせ機能をオフにするだけでした。
彼女の最期の言葉は
「温度を、25度に、設定しました」
でした。
それ以降。
我が家のエアコンから、彼女の声が消えました。
温度を上げても。下げても。
タイマーを設定しても。
電源を入れても、切っても。モードを切り替えたりしても。
彼女は。
一言も喋らなくなりました。
暑いな。温度下げるか。
ピ
、、、
、、、
これが、僕と彼女の。
別れです。
それにしても。最近の家電はよく喋りますね。
あとは、お風呂場の彼女のお喋りを禁じるかどうか。
近々また別れが来るのか。
それともニュー家電を投入して。新たなお喋り彼女ができるのか。
そもそも、なんで全部女性の声なのか。
悩みと疑問と切なさの。
今日この頃。