エレキギターの話 | 雑記帳

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 『FENDER』というギターメーカーがある。
 エレクトリックギターをプレイする者で、フェンダーの名を知らない者はいないだろう。エレキの本場アメリカ合衆国で1940年代にレオ・フェンダーによって興され、今やエレキの聖地と言っても過言ではないほどのギターメーカーであるフェンダー。
  そのフェンダーの作品に、今なお燦然と輝く名器が存在する。

 『FENDER American Deluxe Stratocaster』

 フェンダー・アメリカン・デラックス・ストラスキャスター
 ロックの本場米国の数ある名プレイヤー達から「ストラスをプレイするためにミュージシャンになった」とまで口を揃えて言わしめた、伝説の名器である。
 利益を追求すべき企業でありながら、フェンダーはこのストラスキャスターを生産するために完全に利益と生産性を度外視した。伝統的なシェイプに厳選された“トーンウッド”ボディー、中でも「Ash Stratocaster」と呼ばれるギターはボディ材にアッシュ材を採用、その美しい木目を際立たせるカラーリングが施され、それはもはや芸術品と呼んでも決して過言ではないものだった。
 「ギターのストラディバディウス」などという言葉が、70年代にはジョーク交じりに米国の若者の間で語られたものだった。

 そしてこのアッシュ・ストラスキャスターを更なる伝説として歴史に刻み込んだのが、一人の日本人女性ロックシンガーだったということは、意外にも日本ではあまり知られていない。
 
 あえて彼女の名は記すまい。だが現在でも世界のロック界では「ストラスアッシュ」は彼女の代名詞であり、90年代にアッシュ・ストラスキャスターをフェンダー社が限定復刻した際にはモデル名に正式に彼女の名が銘としてボディに刻まれたのだ。
  ロックを良く知らない人には通じないかもしれない、だがこれはロックの歴史から見て本当に信じられないほどの待遇なのである、それは同時にロックというものに対するアメリカ人の懐の深さを表しているともいえよう。
  だが、そんな「東洋の伝説」である彼女の当時は決して栄光に照らされたものではなかった。
 当時、ロック界では東洋の辺境にあるジャポンとなどという島国など、猿の集まりとしか認識されていなかった。(嘆かわしいことにロック界では今もさほど変わらないのだが)
 ましてや女性ロックシンガーともなれば、本場米国であっても色物としか見てもらえなかった時代である。今の日本で言うところのコミックバンドとしか認識されてはいなかったのだ、彼女のデビュー当時は。
 
 だが、そんな境遇にありながらも次第に彼女は自らの才覚によって当時米国で蔓延していた偏見と差別を払っていく。
 現在アメリカを代表するロック誌『Alternative Rock』の初代編集長であるスティーブ・マッケンジーは、当時の彼女についてこう語っている。

「彼女のリフは暴風であり、暴力だった、荒々しくも清浄たるそれは、当時のステイツに蔓延していた人種差別に根源する暗黒の雲を打ち貫く騎兵隊のマスケットに他ならなかったのだ」
 
 人種差別と迷信が混在する暗黒時代にありながら、次第に彼女はロック界で認められていった。この頃から彼女は携帯する愛器から「ストラスアッシュ」と呼ばれるようになる。
  余談ではあるが、このロックに対する真摯さというか愚直さこそが、アメリカという国の懐の深さだとわたしなどは思えてならない。だがしかしそれはあくまで彼女の実力があってこその話だったのだろう。
 
 とにかく、こうして一気に彼女、「ストラスアッシュ」は全米のロック界を席巻した。
 当時のアメリカでロックを好むティーン(特に女子)は総じて彼女に熱狂し、この頃にはエレキと言えばフェンダー、フェンダーと言えばアッシュ・ストラスキャスター、そしてアッシュ・ストラスキャスターと言えば彼女、という正に全盛時代。
  こうして歴史を振り返ってみると、90年代に復刻したアッシュ・ストラスキャスターに彼女の銘を刻んだフェンダー社の意向はむしろ当然と言えるのかもしれない。


 そしてそれからきっかり1年と半年後、「ストラスアッシュ」は若すぎる死を迎えるのである。

 現在でも第一線で活躍するロックシンガーグループ『Beyond Baybridge』のリードボーカルであるエマーソンがとある雑誌のインタビューで当時をこう語っている。
 

「ステイツのロックシーンにとって、『ストラスアッシュ』は破壊者であり、解放者だった。彼女は正に『風』だったんだよ」


『She was a wind.』

 けだし名言というべきだろう。
 「ストラスアッシュ」、彼女の魂は、ロックの本場であるアメリカ合衆国のみならず、世界中のロックシンガーたちに今でも脈々と受け継がれているに違いない。

 

 

 話の締めとして。


 もっとも驚くべきことは、この話がほぼすべて嘘っぱちであるということだろう。