アルビオン海兵隊を名乗った男、レオーネとガルス国教騎士隊を名乗ったヴァルゴは尚も斬り合いを続けていた。
これで何合目であろう、レオーネのアロンダイトとヴァルゴのハイルグロンが鈍い音を立ててぶつかる。
最初は銃で応戦していたヴァルゴは魔力切れを起こしたのかその手にはなく、再び禍々しい大剣を振りかざしていた。
しかし。
ギィィィィィィン…
その何度も聞いた鈍い音と同時に、レオーネの持っていた剣が折れた。
ヴァルゴの剣を何回も受けてまともでいられる武器はこの世にそうそうは見つからない。
レオーネの剣はそこそこ銘のある剣ではあったが、所詮普通の剣であった。
普通の剣で受けるにはヴァルゴの剣は大きすぎたのである。
「…私の勝ちだ。…最後に言っておくことはあるか?」
ヴァルゴはその大きすぎる剣の切っ先をレオーネの首にぴたりと当て、静かに言った。
「そうだなぁ…ちょっと待ってな」
ヴァルゴからすれば、この言動は自分が負けたと思っていない、そう読み取れるような口調だった。
「今の自分の状況をわかっているのか?」
ヴァルゴは多少苛立ちを覚えていたが、それを顔や声に出さないようにする。
「もうちょっと待ってよ。ここまで出掛かってるんだ」
レオーネはちょうどヴァルゴの切っ先の辺り、喉元を差してそう言った。
「…残念だが時間切れだ。安心しろ。お前の死は無駄にはしない」
レオーネの言葉を無視してヴァルゴはそう告げた。そのまま大剣を振り上げる。
「…あ、思いついた」
「もう遅い」
「俺は一人で戦ってるんじゃないよ。…って言いたかったんだ」
「……!!」
トスッ
剣を振り下ろそうとしたヴァルゴの動きが止まる。そしてそれはレオーネの言葉を聞いたからではなかった。
ヴァルゴは自分の脇腹に違和感を感じた。
その違和感に手で触れる。そこにはナイフが突き刺さっていた。
「間に合ったみたいだね」
「遅いよ。危うく死にかける所だったじゃないか」
ヴァルゴは一瞬何が起こったのかわからなかった。
ただ一つ言える事は、レオーネの言葉が嘘ではなかった、ということである。
ヴァルゴは刺さったナイフを勢い良く引き抜き、そのナイフが飛んできた方を見た。
投げたのはどうやら女のようである。
ヴァルゴ程ではないが長身の、紅い髪。手には数本のナイフが握られている。
「中々の手練のようだが…名前を聞いておこうか」
ヴァルゴは自分の体から引き抜いたナイフをその女の足元に投げる。
「私?…名乗るほどのもんでもないけどね。私を知る人はシルヴィア、って呼んでるわ」
シルヴィアと名乗った女は握っていたナイフをしまいながらそう言った。その代わりに右手に何か黒い皮手袋のようなものをはめる。
「何してるの?ここは私がなんとかするから君は武器をなんとかしてきなさい」
「…すまん。また戻ってくるから無事でな!!」
シルヴィアの言葉に、レオーネはすぐに動きだした。
丸腰の男をそのまま逃がすようなヴァルゴでは無かったが、どうやらそれはシルヴィアが許してはくれなそうであった。それに、思ったよりナイフは深く刺さっていたようだ。
「と言うわけで、今度は私が相手になるわ」
「……いいだろう。今度は隙あればその首、遠慮なく飛ばさせてもらう」
「できるかしら?言っておくけど、私はレオーネよりずっと強いよ?」
シルヴィアは右手にはめた皮手袋の端を手前にキュッと引っ張り、その指先をヴァルゴに向けて言った。
ヴァルゴはその手に魔力が宿っているのを感じ取った。
「あ、せっかくだから私の運命を教えてあげる」
「……。なんだ」
ヴァルゴはいい加減この展開にうんざりしてきていた。
ただ、そこで集中力を欠いてしまっては相手につけこまれてしまうこともわかっていた。
ヴァルゴは神経を研ぎ澄ましつつ、シルヴィアの次の台詞を待った。
「私ね、火抉星、なんだって」
「宿星か…」
「良く知ってるねぇ。…んじゃ説明の必要なないね」
「無駄話はその辺にしてくれ。我々は一刻も早くあの砦に食らい付かなければならないのでな」
「あら、釣れないですこと。ま、いっか。…行くよ」
ヴァルゴは大剣を両手で構えなおした。腰を落とし、体をシルヴィアの垂直に向け、その切っ先を後ろへと向ける。
シルヴィアはヴァルゴに向けていた指先を下ろし、そのまま前かがみに構える。
二人の動きが止まる。
「あ、一応フェアじゃないから言っておくけど」
「……」
「私だけと戦ってる、って思わない方がいいよ」
「……。どういう意味だ」
「私は一騎打ちをするつもりはない、ってこと!!」
シルヴィアはその台詞が言い終わるや否や、ヴァルゴの懐へと一気に踏み込んだ。
ヴァルゴはその姿を冷静に捉え、軌道をずらさないように大剣を横薙ぎに振り込んだ。
正面にいたはずのシルヴィアの体が一瞬で消える。
ヴァルゴは振りぬいた剣を、勢いをそのままに自分の体の後ろへ廻した。
ちょうど剣道の「面」の形。
シルヴィアはヴァルゴの剣が体に触れるスレスレの所で上へ跳躍していた。懐から先ほどしまったばかりのナイフを二本、両腕で引き抜いた。
ギィィィィン
「ぐっ…」
シルヴィアはヴァルゴの唐竹割りを真っ向からナイフで受け止めた。その衝撃はすさまじく、シルヴィアはそのまま地面に叩きつけられてしまう。声が漏れる。
ただ、シルヴィアはしっかり受身を取り、辛うじてではあるがヴァルゴの大剣を受け止めていた。
しかし、体勢の有利不利は傍から見ればどっちがどうかは一目瞭然であった。
「このまま朽ちろ…!!」
ヴァルゴは上から大剣へ力をかける。シルヴィアは二本のナイフで受け止めているが、それはどんどん下へと落ちていく…。
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とりあえず、今日はこの辺で。