そこに美味しいうどんがある限り…。

 

 

 

目の前に小麦色の瑞々しい艶を湛えたうどんが運ばれてきた瞬間、これは間違いなく【旨い】ことがわかりました。

 

それは脳が直感的に判断したという感覚に近いものでした。

 

引き寄せられるようによく冷やされたその麺を一口よそい、ズルズルと掻き込んでみると、繊細かつ大胆な食感の素晴らしさに舌を巻きました。

 

表面は柔らかく、芯はしっかり。

 

この二つの相反する概念が同居した完璧なまでのうどん(これを【コシがある】と表現するのだと思いました)。

 

この色、この艶、この太さ、そのどれもがもはや【絶妙】という言葉以外で表現することが難しい……。

 

 

「これ、めっちゃうまや」

 

「うちのもほんと美味しい……」

 

 

場所は、うどん県高松市、屋島にある『わら家』という讃岐うどんの名店。

 

その名の通り古民家を改装した藁葺屋根の佇まいのお店で、木々に囲まれた小高い斜面に位置しており、雰囲気も良いことから、多くの観光客や地元民で賑わうお店です。

 

ここを訪れたのは、2006年に公開された映画、『UDON』を見て、いつか讃岐へうどん行脚をしてみたいと憧れていたからで、それがようやく実現したのは、蕎麦大国、信濃出身にも関わらず何故かうどんに目がない嫁(様)が、本場の讃岐うどんを堪能したいと所望したからでした。

 

 

「東京全体のマクドナルドの総店舗数より、日本で一番小さい県である香川県のうどん屋の数の方が遥かに多い……」

 

映画『UDON』は、こんな解説で始まりますが、実際、県内を走り回ると本当にうどん店が多いことに驚かされます。

 

そんな中、間食までしてうどんを堪能して来ましたが、僕にとってこの『わら家』のうどんはダントツでした。

 

 

「今回、食べたうどんの中でこれが一番や~」

 

「うちは、なかむら屋のもちもち食感のうどんが一番だったなぁ」

 

 

うどんの好みは人それぞれ。県内に680軒あるといううどん店には、製麺所直営の個性溢れるお店が数多く存在し、それが讃岐うどんをより懐の深いものにしています。

 

 

今回一泊二日の短い旅で訪れたお店は、以下の通り……。

 

1軒目『なかむらうどん』釜玉うどん 360円

2軒目『宮川製麺所』掛けうどん大二玉 240円

3軒目『しんぺいうどん』とり天カレーうどん 750円

4軒目『わら家』ざるうどん並 460円

5軒目『さか枝 南新町店』釜玉うどん小  330円

 

*値段は訪れた2019年当時のもの。

 

製麺所のうどん店に駐車場があるか心配でしたがそれは杞憂に終わりました。

『なかむらうどん』・『宮川製麺所』どちらも駐車場完備。ただ、数多くのうどん店が昼の早い時間に終わるので、夜、うどんを食べれるお店は滅法少ないのでご注意下さい。

うどん行脚は回る順番がとても重要となります。

 

 

 『わら家』の他に印象深かったのが、嫁(様)も大絶賛した『なかむら屋うどん』のかまたまうどんでした。

 

【讃岐富士】(飯野山)を一望できる好ロケーションに製麺所直営店独特の雰囲気が漂います。

 

 

 

それもそのはず、こちらの店は元々、お客自らが畑からネギを引き抜いて自らカットする究極のセルフシステムを行ってたことで有名なお店。

 

今は、お客が増えたためなくなってしまったようですが……(笑)。

 

うどんの方はそれこそ強靭なコシこそありませんが、その柔らかく弾力性に富んだ食感は卵との相性が抜群。

 

コシの強い讃岐うどんとは一線を画した何杯でもおかわりできそうな本当に優しいうどんでした。

 

 

しかし、無類の麺好きの僕が提案したこのうどん行脚でしたが、それにまったく動じることなく、一緒に朝、昼、晩と、ひたすらうどんを食べ続けた嫁(様)にも正直驚かされました…。

 

 

しかも、大阪に戻ってからも外食はほぼうどんで二人とも頭の中がすっかり【うどん脳】になってしまったかのよう(笑)。

 

以前、訪れた市内、東住吉区(嫁(様)は以前、ここのことを「ヒガシスミキチ」と呼んでいましたが……)のうどん店の店主が、自嘲的な表情を浮かべ、「うどんブームはもう終わりましたよ…」と語っていましたが、少なくとも僕らにピンポイントでうどんブームが再来、再燃したようです(笑)。

 

讃岐には、まだまだ訪れていない名店が沢山あります。

 

機会があれば……いや、無理やり機会をつくって何度でも訪れたいと思います。

 

そこに美味しいうどんがある限り…。

 

 

 

(今回のお話は2019年、当店情報誌『眠りの楽屋裏通信vol.60』に掲載したものです)。