【新宿署痴漢冤罪憤死事件】息子はボイスレコーダーを残した! 死を無駄にしないで! | a.k.a.“工藤明男” プロデュース「不良の花道 ~ワルバナ~」運営事務局
 ■突然に起きた暴行事件と連行

 2009年12月10日午後11時ごろ、大学職員の原田信助さん(当時25歳)はJR新宿駅構内の階段を上っていた。すると見知らぬ男性から突然、階段から突き落とされ、一方的な暴行を受けた。駆けつけた駅員からも暴行された。

 信助さんは新宿署に連行されると、突然、痴漢の犯人扱いをされた。その屈辱からか、釈放された翌朝、東西線早稲田駅のホームから飛び降り、死を遂げたのだ。遺族の母親、尚美さんは東京都を相手取り、損害賠償を求めている。 

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<「新宿署違法捜査憤死事件」ホームページ>



■容疑を告げない「違法な捜査」

 信助さんは新宿駅構内のホームに登ろう階段を上っていたところ、突然殴られた。喧嘩となったが、自らの携帯電話から110番通報した。警察官が現場に到着した後、新宿署に任意同行で連行される。この段階では、信助さんは喧嘩の当事者として事情聴取を受けていると思っていた。

  しかし、新宿署に連行されたとき、理由が「痴漢の容疑」ということがわかる。容疑事実を告げないで連行するのは違法捜査だ。しかも朝まで長時間、取り調べが行なわれた。駅構内で暴行され、信助さんは頭を打っていた可能性があるが治療されなかった。

 11日午前4時ごろ、署員から「もう帰っていいですから」と言われる。信助さんはどうして痴漢に疑われたのか? をわからないままでいた。始発まで待っていたのか、午前5時45分頃、新宿署を出る。疲れ果て、悩んでいた信助さんは午前6時40分頃、東西線早稲田駅の線路に落下。電車にひかれてしまった。自殺と思われている。  


■見えてこない、信助さん転落の理由

 母親の尚美さんは午後7時15分、牛込署からの携帯電話で信助さんが早稲田駅で事故にあったことを伝えられる。翌12日、信助さんの持ち物であるボイスレコーダーが落とし物として届けられていたことを知った。ボイスレコーダーに、顛末の一部始終が録音されていた。

 2011年4月、母親の尚美さんは国家賠償法に基づいて、東京都を訴えた。6月に第一回口頭弁論が開かれた。これまでに口頭弁論が16回、進行協議(非公開)が4回あった。ようやく証人尋問で誰を呼ぶのかという段階まできている。

 私が最初に疑問を持ったのは、亡くなった東西線ホームの映像が出てこないことだ。そもそも、本当に自殺だったのか? 誰かに突き落とされたとか、何かにぶつかった可能性だってある。

 あるいは、頭をぶつけて治療もせずに帰ったために、ふらついてたまたまホームから落ちたかもしれない。それは映像を見れば何かがわかるかもしれない。そう思っていた。しかし、映像はない。  


■警察が提出した不自然な音声データ

 5月の進行協議では、都(警視庁)側は信助さんが新宿駅構内からかけた110番通報の音声データを出して来た。110番通報の保存義務期間は1年。そのため、音声データはもうない、と思われていた。しかし、都側は保存していた。

 ただ、この音声データはこれまでの証拠等から考えると、不自然な点がある。信助さんがこの時点で駅員の名前を言っているが、残されたボイスレコーダーから考えると、信助さんが駅員の名札にある名前を読めていないと思われている。

 ボイスレコーダーは、現場に警察官が到着し、新宿駅西口交番、新宿署でのやりとり、また釈放されてから電車にひかれるところまで記録されていた。110番通報のときはボイスレコーダーの記録はない。この時は名前を読めた可能性もゼロではないが、音声データがつくられたものという可能性も否定できない。 


■裁判に時間がかかっている事が一縷の望み

 できれば、110番通報の音声記録が本物かどうかを鑑定すべきだろうが、鑑定する時間をつくると、さらに証人尋問が遠のく。裁判全体の時間も長引いてしまう。そのため、音声記録の鑑定は求めないことにし、証人尋問を優先した。

 今の希望は「裁判に時間がかかっている」ことだ。国賠訴訟の場合、短時間で弁論が終わる場合は、原告が負けているケースが多く、「勝つかもしれない事案は長引く」と言われているからだ。しかも、途中で裁判長が交代になった。

 裁判長が交代するケースもなくはないが、これまで積み上げてきた議論はいったん、ゼロになると思った方がよい。当初はどうなるかと思っていたが、今回はそれが功を奏し、より論点が整理されてきている格好だ。

 今回の訴訟では、違法捜査だけを争っている。信助さんの死と違法捜査との因果関係までは証明することは難しいと判断した原告側は争点にしていない。関係者の証人尋問はいよいよ来年にも行われることになる。

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<何よりも知りたいのは真実であろう>


 (取材・文 渋井哲也)