じつはこの部分は、気がつかれないが、人物の動きにカメラが世っていかないことによって、井戸を横倒しにしてハイっていくとか、洞窟の奥に入っていって、奥で会うという情況に近いイメージを出している。
そして、女は、茂兵衛を待っていたのに、その気持ちを隠して、
「まあ、茂兵衛さん」と言っている。
こうした繊細微妙な演出が、傑作の演出の秘密だ。
ここでも、「お帰りやす」「お帰りやす」と続いた後、背後で、横切る人物の消えるのと、主人公も兵衛の消えるタイミングが合わせられている。
茂兵衛が謹慎させられている部屋は、屋根裏部屋のはずだが、正面の壁のない非情に奇妙な構造になっていることがわかる。
これは、映像的効果のために、下から上に行く様子がわかるように、撮影できる特殊な構造の部屋が考え出されている。
ここで茂兵衛が、水たまりを越える時、「お家さま」をかつぐようにする様子がすごい。
つまり、おんぶをするような間柄ではない、ということを示しているのだ。
「岐阜屋さんにも」から、「 恐縮恐縮 」まで1分10秒、流れるように、場所と人物を移動して、長回しで撮影している。
茂兵衛、と言ったあとの、おんなの首の動かし方は、世界映画史にもめずらしい上念の演出だろう。