筑波大附属高校に合格した生徒の話を。

 

思えばこの男子(付属中)にはいろいろ教えてきましたが、一言でいうならメンタルについてはいろいろ語ったなあ…と回想しています。

 

 

この生徒は中2の冬に塾に来ました。勉強がずば抜けてできたのと、ものすごい努力家だったことから私が個別で教えることにしました。飛びぬけた才能があるのに努力しない人や、その逆パターンだったら集団で見ますが、この生徒だったら私が1時間半で教えるいろんなエッセンスを吸収して、残りは家庭学習で頑張ってくれるだろうという実感がありました。

 

 

指導が始まって1か月ほどたった2月の校内テストで学年1位を取り、このとき本人がふと志望校を口にしました。全国でも有名なところ、筑附とか西大和を受けたいと。理由を聞くと、周りを驚かせたい、ナメられてるからギャフンと言わせたいと、そんなことだったと思います。私は、1位なのにナメられてんの?お前の周囲はなんちゅうアホな連中や!と毒づいた後、でもさすがだなと感心しました。最近は欲のないいい子ちゃんばかりでさ。オレの中学高校時代のトップ層は、たとえ相手が自分より成績が上でも、お前はバカだ、オレの方がすごいとみんなマウントの取り合いをして勉強を頑張ったものだ。お前の学校にはまだそういうのがいるんだな。周囲を見下したい?いやいや全然それでOK!動機なんて本来不純なものなんだよ。

 

 

そのあと何をどのぐらいやったか、ここですべては明かせませんが、ひとまず中3英数は3月から7月の授業で完了させました。それらを固めるために、夏休みは英数はもちろん他教科も結構な宿題を出しました。私は、午前は五橋教室にて中3集団授業(午後は名取)を行っていましたが、男子は別室で一人黙々と私の指示したカリキュラムをこなしていました。私は授業の合間に「今日も頑張ってるな」「エライな」とよく声掛けに行き、質問対応したりしていました。

 

 

そんなあるとき、夏期講習が始まって一週間ぐらいたったときでしょうか。男子は「先生…」と言ったあと、何か言いにくそうにしていました。話を聞くと、学校の友達がみんなKとかで夏期講習を受けている、自分はこのまま(夏期講習を受けないで自習)でいいのか、置いて行かれてるのではないか、だんだん不安になってきて…と語りました。

 

私はそれを受けて次のようなことを言いました。

 

 

・お前は7月までで中3内容が終わっている。いま一般的な講習を受けても意味がない。これまでやってきたことをこのテキストでしっかり固めるんだ。これが終わったら盆明けにはすぐに筑附と西大和の過去問をやる。間に合わせろ。

 

 

・一人で黙々とやって置いて行かれてるのではないかと言ったな。大学受験なんかはそれが普通だぞ。最初は予備校に行っても、そのうち自分でやった方が速いと気付いて家や自習室でコンコンと勉強にふけるんだ。トップ層なんかはそういうケースが多い。でもそれは18歳や19歳だからできるのかもな。15歳では無理かな。でもお前が受ける学校に合格するには大学受験ぐらいの精神力が必要だと思うんだけどな。

 

 

・N高の合格体験記に「受験は集団戦」なんて言葉が書いてあってビックリした。あれはヒントや答えをチームメイトにパスするという意味ではなくて(笑)、そこを受けるのは自分一人ではないこと、みんなで一致団結して不安をかき消そう!ということを言いたいと思うんだけど、間違ってるな。

 

中間層が中間大学を受けるならそれでいい。でもトップは人に依存しているようではダメだ。孤独であれ。孤高であれ。経営者なんてみんな孤独だ。「世に覇者はひとり」という精神を持ってほしい。

 

 

 

・Kはいい塾だな。もしもオレが、お前が持ってくる高度な質問に答えられないとか解説が分かりにくいとか何か不満があれば遠慮なくあちらに行ってくれ。Kには恩義があってな。いつかお返ししたいと思っている。Kに行くならオレが話をつけてやろう。

 

・あとこれはオレが勝手に思ってることだから流して聞いてくれ。何かに所属することで安心感を得られる人間がいる。大会社や公務員、大手事務所、有名組織…そういうところに所属することで不安が解消される人がいるんだ。逆にそういうところには属したくない人間もいる。組織では生きられず、自由度の高い仕事をする人。反骨精神の塊。お前の性格はどうだろう。前者タイプならばKに属するのもありだと思う。受験はメンタルが大きくモノを言う。所属することで不安が消えるのならメリットは大きい。

 

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ちなみにここはお母さんのパワーがすごいのなんの。この話をしたあとお母さんは私の意見に全面的に賛同して、そうだよアンタ!なに弱っちいこと言ってんの!誰がどこに所属しているとか関係ないでしょ!そういうのがアンタの弱点で心の弱さなんだよ!ということをまくし立てる様はまさに在りし日の三原じゅん子。そばで聞いている私も縮み上がりました。

 

 

9月、「友達で頭のいい人が」「Kに行ってる友達が言ってたんですけど」「○○のブログに書いてあったんですけど」とよく口にする男子。私はその都度たしなめました。

 

・「頭のいい友達」なんてものはこの世にいない。敵をそんな簡単に認めるな。敵を認めると不安は増幅してしこりになって腹にデンと居座るぞ。敵はすべて下郎だ。

・「Kに行ってる」から何だ?そこの講師はオレより優れているのだろうか。オレより速く正確な解説する人がこの宮城にいるとはとても思えないけどな。まあこれはほかの塾講師も皆自分が一番だと思ってるだろうけどな(笑)

・「○○のブログ」の話はオレの前でするな。アレは見てはいけない。精神が腐る。人間、精神が腐ったらおしまいだ。

 

 

9月末、それでも相変わらず「Kの人が」「頭のいい友達が」のクセが抜けないので私はついにギブアップ。本人に真顔で伝えました。もうウチは終わりにしよう。これ以上あちらの話をされては限界だ。オレが向こうより下に見られるのはごめんだ。それにもしこれで落ちて、あの時やはりあっちに行っとけば…なんて言われたらたまったもんじゃない。これは突き放して言ってるのではない。お前はやはり何かに属することで心の安寧を得るタイプの人間のようだ。今月でウチの塾はおしまいにするように事務にも言っておく。

 

 

このことを保護者にも伝えると、ここでまたパワフルお母さんが登場。あれから息子と喧々諤々、いろんな話をした。最終的には先生に失礼なことを言ってしまったと本人も反省していた。これからはこういうことはもうないと思う。もしあったらそのときに切ってもらって構わない。だからまた見てやってはくれないか。

 

こうまで言われては…ということで指導続行。このあとの男子生徒は何の気の迷いもない感じで最難関の問題集を次々とハイペースでこなしていきました。

 

しかし1月、男子は東北学院受験を前にまた不安を口にしました。受かりますかね…、過去問をどのぐらいやったらいいでしょうか。そろそろ宮城模試を受けた方がいいんじゃないでしょうか。

 

いらないよ。お前はそういうところで戦っていない。学院に受かるかどうか?受かる!

というかなんでそんなことをいちいち考えるんだろう。お前はまだメンタルの最終段階に来てないようだな。

 

受験のメンタルは大きく3段階ある。それはな…

 

(つづく)