「次は数学です。これ見てください」

 

今年高3になるN君はテーブル上にある模試成績表の数学の得点欄を指さしました。スコアは、共テ型模試の数ⅠAⅡBの合計200点中、120点台でした。

 

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ふ~ん、6割か。この時期ではまずまずなんじゃない?

 

「ハイ。自分でも数学はそんなに不得意じゃないと思ってるんですけどこの後どういう勉強をすればいいのかなって。ボク、すごい不安なんですよ」

 

ほう、それは素晴らしいことだ。

 

「夜寝る前とかも、このままでいいのかなってどんどん不安になっていって。何かやらなきゃって思って起きてやるときもあるんですけど、霧の中というか、何を頼りにしたらいいのか、今やっていることが正しいのかどうなのかとかいろいろ考えると不安で不安で」

 

へ~、まだ4月なのに…。入試直前の受験生みたいだな。この時期からそんな心境になっている人なんてなかなかいないぞ。どうしてそうなった?ウチの息子と同じでお前は中3の12月までまったく、ただの1ページも勉強なんてしなかったじゃん。

 

この仕事をしてるとさ、母親から「ウチの子供は家で全然勉強しません」なんてセリフをよく聞くんだけどさ、いくらやらないと言っても、見ると「全然」じゃなくて50%とか20%はやってあるんだよ。ところがお前はゼロだっただろ。後にも先にもお前と息子ほどやらない人間、12月までゼロページの人間なんていないからな。それがどうしてそんなに生まれ変わったんだ?

 

「やっぱり……一高落ちたからじゃないですか?結構ショックだったんで」

 

ショック?へ~…一生懸命やった人が落ちたらショックはあると思うけど…お前も感じたんだな。

 

「ハイ…。だから大学受験では絶対失敗できないと思って。高2の夏ぐらいから部活もセーブして本格的にやるようになって」

 

いや~そっかぁ。やっぱりなぁ…落ちることで気づくことってあるんだよなぁ。だからオレはず~っと言ってるんだ。点数とか偏差値とか合格不合格などどうでもいい。努力したかどうかだろってね。お前のように変われるなら…不合格もアリだなホント…。

 

 

じゃあそろそろ数学の話するか。

 

すでに6割取れているってことは学校の教科書に書いてある基本的なことは分かってるの?公式とか。

 

「はい、だいたいそこは入っています。あ、そうだ!公式は暗記だけじゃなくて成り立ちも説明できなきゃダメですか?」

 

それはもちろん。余弦定理も数列の公式もベクトルの公式も全部だ。

 

「なるほど。まあだいたい大丈夫だと思いますが…そのあとは」

 

ポイントは、数学が英語とか理社のような暗記科目ではないってことだ。Nは分からない問題があったときどうするの?すぐに解答を見ちゃうの?最近は答えを広げながら勉強している生徒が多くてね。困ったもんだよ。

 

「え~と…自分の場合は10分ぐらい考えてダメなら解答を見ますかね…先生の場合は?やっぱり1時間とかですかニコニコあせる?」

 

時間じゃないよ。1日でもない。1週間ぐらいかな。

 

「え?1週間?」

 

そうだよ。そこまで考えても分からなかったら…もう飛び降り自殺するような絶望感というか背徳感というか…ひどく打ちのめされた気分で解答を広げる。

 

「そういえば解答を見るときは切腹するときだってずっと言ってましたよね。でも学校の先生は、時間は無駄にはできないから少し考えて分からなかったら答えを見ていいって言ってました」

 

それは学力の低い子に対して言ったんじゃないかな。もしも教科書の基本もまだ頭に入ってない人ならいろいろ見ながらやっていいよ。模試でいったら6,7割未満の人かな。こういう人はそもそも考える材料が頭に入っていないから、先生の言う通りに、考える時間が無駄だと思う。

 

でもすべての武器を持っている人ならさ、あとはどうやってこのジャングルを切り開くかの勝負でしょ。そこは日々、頭を使って脳の筋肉を鍛えないと。腕に筋肉つけるのと同じだよ。軽いダンベルを上げ下げして筋力がつくか?つかないでしょ。

 

相撲取りとかプロレスラーはさ、苦しい表情で大量の汗をかいて腕をプルプル振るわせながら重いダンベルを上げ下げするから腕が太くなるの。

 

これを数学の勉強でいうと、難しい問題を眉間にしわを寄せて脳が汗かくぐらい丸一日ジ~ッと考えることだ。答えをすぐに見る勉強法でどうして脳に汗をかくことができようか。

 

「丸一日ですか…。それだと理科社会とか他の科目ができなくなりますよね」

 

うん、できないね。

 

「それで大丈夫ですか?学校の先生はいろんな科目を満遍なくやれって言ってました」

 

やってるよ。さっきも言ったようにトイレ中、移動中、食事中、風呂、寝る前とか。暗記モノはこういう時間を使ってるから。

 

「まあそうですけど…」

 

あのな、言っとくけど数学もできないでどうして理系だと言えんの。理系人間なんて机に座ってやる勉強時間は数学に全振りしてもいいぐらいだ。受験も押し迫った10月頃なら過去問などもバランスよくやるべきだがまだ4月だぞ?東北大の理系狙ってんでしょ?共テ模試レベルの数学だったら余裕で満点を取れないと話にならないよ。

 

そ・れ・に!数学がそのぐらいになっておけば、ほかの勉強をするときにも必ず生きるから。

 

英語とか理社国ではそうはいかない。英語が満点だからと言ってほかの科目で得することなんてまったくない。でも数学はある。さっき言った理科のモル計算とか物理でも三角比を使うし、社会の割合計算、国語でも英語でも論理力は必要。得することがい~っぱいある。理系ならある意味どのレベルの大学を受けれるかというのは、その受験生の数学力で決まるとさえ思ってるよ。

 

「そうですか~…やっぱりそんぐらい考えなきゃダメなんだな~」

 

さっきお相撲さんの話したけど、頭脳の職業で言ったら例えば将棋な。この人たちは修業時代にどういうトレーニングをしてるかというと、詰将棋、しかも100手詰めとかの超難解なやつを盤駒使わず頭だけで考えるんだよ。

 

 

 

数学は解答を見ないで自分の頭で考えたかどうかがすべてだ。解答を知っていることには何の意味もない。

 

たとえ自分で考えて出した答えがハズれていても構わない。そのぐらい頭を振り絞ってもがいたかどうかが数学力に直結する。

 

 

オレは高校時代の土日は朝から晩までコンコンと、たったの数問にじっと固まったままコンコンと考え込んだものだ。それで出した答えに満足して、答えの確認まではやらないこともあった。こんだけ考えたんだから自分のは絶対に当たっているし、もし解答が違っていたらそっちが間違ってるわと思ってね(笑)

 

「いや~そっか~。分かりました!やります!」